垂直落下式サミング

フライト・クルーの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

フライト・クルー(2016年製作の映画)
4.2
主要な登場人物は三人で、上官の命令に背き軍から除隊させられた熱血訓練生パイロット。男社会の航空業界で女だてらに虚勢をはって頑張る女性パイロット。不良息子の教育に頭を悩ませる頑固な仕事人間のベテランおやじパイロット。やや冗長にも思えるが、こうして彼等の生活や心理をしっかり描写することで、後半はパニック映画を盛り上げる登場人物が一通り揃った役満状態で未曾有の大災害パートに突入するため退屈などあり得ない。三人が火山噴火に見舞われた人々を救出することとなるレスキューフライトムービーだ。
序盤は新兵教育お仕事映画。後半は救急救命レスキューから未曾有のフライトパニックへ。二本の航空映画で『ボルケーノ』をサンドウィッチしたような内容で、登場人物のガッツと頑張りによってすべてが解決される体育会系映画の様相。
島内に取り残された人々を救出し、空港に着いたはいいが滑走路が使えない!奇跡的に離陸に成功するが火山灰を吸い火を噴くエンジン!迫るマグマ!燃える滑走路!高度を上げろ!目の前に嵐が!燃料が無いぞ!燃えろ!ヒコーキ屋魂!そんな具合に、被災者たちを救命する後半は、一難去った次の瞬間すぐさま別の問題が浮上してくるアクセルベタ踏みで展開する猛スピードの熱い作劇が為されている。
飛行機と飛行機を繋ぐ奇跡の救出作戦にはびっくりすること請け合いだ。小さな針の穴を腕力で無理矢理に押し広げて気合いでロープをぶっ通すかのような一世一代の救出劇。力の弱いもの・精神の弱いものを振るいに懸けるが如き荒行である。正気の沙汰じゃない。それを可能にするのは訓練生アレクセイの持つ物語の主人公たる天才性とけして折れない鋼の心。豪胆さと繊細さが同居する、まさに精神の二世帯住宅。彼の熱き情熱に心動かされた乗客全員が「助ける」側に挙手する雲上の多数決に民主主義と社会秩序の円熟をみた。この映画の圧倒的な善意を『ダークナイト』で我が身可愛さに相手の船を爆破しようとしていた人でなしどもにみせてやりたい!
クルーたちが飛行機に乗る前に孕んでいた心の問題は全員で無事生還したことで吊り橋効果的作用が生じ、それぞれの関係が修復・解消されポジティブな大団円をむかえてくれるため、明らかにモブが数人死んでいるのにそれほど気にはならない。これぞロシアンスピリットである。