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バリーのKSのレビュー・感想・評価

バリー(2016年製作の映画)
4.5
70年代後半から80年代初頭ニューヨークを舞台に、ある青年の大学生活での自分は“何者”という葛藤を描いた話。

本作には二つの印象的な問い二つある。
一つ目は、“なぜ、すぐ奴隷の話へ繋げる?”
奴隷制の話とは、労働問題の側面があり、政治や経済の話をする際に、労働者の権利をどう確保するのかというのは、前提条件として必須ではないだろうかと思う。われわれの権利を主張しなければ、すぐに剥奪されてしまうのだから。

二つ目は、“あなたの問題は人種の違いばかり考えている所”というセリフ
人種というレッテルは、奴隷制という社会の構造を維持するために作り出されたという前提に立てば、人種というレッテルによる差別が再生産される側面があるため自らの権利を主張しないと差別が無かったことになる。

この二つのセリフは、人種とレッテルと労働者の権利を剥奪するという二つを組み合わせる事で生まれたのが“奴隷制度”である事を整理する問いかけでもあるのかなと思った。

そして、彼の最後の“いまここにいる”というセリフは、そうした周囲のレッテルに同化するのではなく、言葉の使われ方や意味合いなど過去を学んだ上で、自分としての自己を確立していく様が描かれている。

本作の肝は、そうしたレッテルを剥がしていく過程において主人公のバリーが周囲から差別を受けたり、自分とは考えの違う他者から同化を求められたりする様が本人の葛藤を含め丁寧に描かれている所。
それにより、人種という見た目による枠組みの差別を受けていない大学の友達とは見えている世界(視線)が違う事を浮き彫りにする表現が上手いなと思った。

オバマ元大統領が一応モデルになっているそうですがあまり関係ないというか、誰もが抱く“自分とは何者だろうか”という葛藤にフォーカスされていて、その延長線上として社会が浮かび上がってくる。それは、自己と社会との距離感やコミュニティという切っても切れない関係を見事に表現しているという意味で、物語としてとても興味深い作りになっていると思う。
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