JunichiOoya

種をまく人のJunichiOoyaのレビュー・感想・評価

種をまく人(2016年製作の映画)
3.0
監督さんは、この映画が実質長編デビューらしくて、そもそもは絵を描く人なんでしょうね。

演出的には随分と大向こうを狙ったあざとい工夫も多くて(終盤のドライブはいうに及ばず…)とても楽しめるんですが、その分キャスティングには手が回らなかったようで、墓の心配をする我が子を腐す農家のおっちゃん自身が「息子」みたいな歳格好だし、刑事二人にまるで「国家権力」の冷たさが感じられない。

まあその辺りは些細なことで、この映画で個人的に残念だったのは登場人物たちの立場の分け方。

障害、ミャンマー、教育の幼稚さ、幼い姉妹の関係性、B型作業所(多分そうですよね)の描き方、そして被災地…。
残念ながら多くを盛り込み過ぎてどれもがカタログ風の紹介映像になってしまっている。

見せて欲しかったのは母(祖母)、娘(母親)、子(やたら手足の長い姉)三代に渡る「憎」の構造だったように思う。そこに絞ることは監督の意図とは別の映画を撮ることにもなるので、まあ無理だとは思いますが。

ただ、この物語の枠組みだと、何よりも、あの祖母と母親をはじめとした一族郎党への思い切った医療的なケア、踏み込んだ干渉無くして家族(というか「残された」家族)が一緒に暮らしていくことになるわけで、それはより大きな破滅を招来するだけなんじゃないかと思う。

あと、三点印象に残ったこと。
まず、主演の叔父さんは『Noise』や『解放区』でカメラやってた人なんですね。光量を抑えた荒い画質のシーンとか、なんか岸健太郎さんっぽかった。

ダウン症の幼児は、監督さんの姪子さんなんですね。彼女の存在が映画の原動力になっているところも大きいのかも。

最後に、台詞やナレーションでの「説明」を拒否して絵で語ろうとした監督さんの矜持はとても素敵でした。次回作が楽しみです。
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