m

ネルーダ 大いなる愛の逃亡者のmのレビュー・感想・評価

4.7
「ジャッキー」のパブロ・ラライン監督が異形の傑作「NO」に続きガエル・ガルシア・ベルナルと組んだ今作は、またしてもチリの歴史の影を鋭く描く。しかし今回はより柔らかく、愉しい映画になっている。

この映画の面白さは残念ながら文章で書き表す事ができない類のものなので(まさにコピー通りの『独創的文学サスペンス』)、とにかく観て感じて頂くしかない。それでも少しだけ文章で書く努力をしてみます。


やたら小刻みにジャンプショットを繰り返す流麗且つ独特な語り口で描かれる詩人と刑事の追わせつ追いつの逃亡劇には、既存のジャンルや概念に囚われない大らかな愉しさがある。

芸術家の魂で自由に大らかに闘う男の逃亡劇には独特の余裕と優雅さがあるが、その一方で虐げられる庶民の怒り・苦しみと独裁政治の影(今はよりリアルに感じられるようになってしまった)の重さもその裏側にべったりと張り付いているのが良い。

語り部が『脇役』である刑事である事が効いていて、時折主人公をシニカルに言い表すモノローグも作品にユーモアを付与しつつ主人公を客観的に冷静に見つめる視点をもたらしている。
芸術に感化されていく事によって権力の名も無き犬である刑事の魂が浄化されていく様が非常に感覚的に描かれているのも素敵。

妻の人物造形もさり気なく良くて、彼女の台詞が印象的。



独裁政治に対抗する存在として、人が人の心と自由と尊厳を守る為の手段として芸術が描かれているのが良かった。


この監督の映画は毎回がらりと姿形を変えつつ、独特な素晴らしさを維持していて興味深い。
m

m