ケンヤム

軍旗はためく下にのケンヤムのレビュー・感想・評価

軍旗はためく下に(1972年製作の映画)
4.6
塚本晋也版野火との二本立てだったが、どちらも戦争と現代を結びつけるような映画だった。
この映画を観て映画ファンなら誰でも原一男の「ゆきゆきて神軍」を想起するだろうが、こっちの方は劇映画としてしっかり芥川龍之介の「藪の中」方式、言い換えるなら黒澤明の「羅生門」方式で物語が進んでいって、単純にサスペンスとしても面白い。

ゾッとしたのは千田という陸軍将校のひとことだ。
「帝国陸軍は三十年後必ず再起し、鬼畜米兵をひとり残らず叩き斬る!」
千田が現代によみがえりつつある。
ボクシング協会のアイツとか、日大のアイツとか、千田そのものだよなと思う。
千田は三十年後橋の上で何を言ったか。
「捕虜を殺したのは、後藤くんの独断であって私は一切関知しない」
と、孫の前で平気で嘘を言える鈍感な奴が偉くなるのが今の日本だ。
今の日本というより戦後ずっとそうだったのかもしれない。
だって、A級戦犯が総理大臣になっちゃう国なんだもんな。
あー、やんなるな。
ってそういう映画を深作欣二は撮り続けて死んだ。
ずるい大人、ずるい下っ端を無視せず告発し続けた。
そういう風に捉えると、ますます奥崎謙三と深作欣二が被ってくる。
両者の違いはもしかしたら、自分の思いや狂気を語る術を持っていたか、いなかったかということだけなのかもしれない。

また、上官殺しに至るまでの過程をここまで丁寧に描いた映画もないのではないか。
戦後、天皇陛下の責任の所在を曖昧にする事でなんとか秩序を保った戦後日本で、上官殺しを肯定的に描く事は、国家自体の否定に等しい。
そこに切り込んだ、深作欣二と新藤兼人の誠実さ。
「ゆきゆきて神軍」と双璧をなす戦争映画の大問題作。
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