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夜明けの祈りのchiakihayashiのレビュー・感想・評価

夜明けの祈り(2016年製作の映画)
4.4
1945年のポーランドは、5年以上に及んだナチス・ドイツの占領からソ連軍によって「解放」されたものの、ソ連軍もまた新たな「占領軍」という側面を持っていた。この映画は戦争末期、ソ連兵に暴行されて妊娠した修道女たちと、彼女たちの力になった一人のフランス人女性医師の実話を元にしている。この過酷な現実においては、信仰が問われると同時に〝母性〟とは何かが問われる。それがアンヌ・フォンテーヌ監督の「探究したかったテーマ」だという。『美しい絵の崩壊』(13年)、『ボヴァリー夫人とパン屋』(14年)と近年、女性ならではの確固とした視点と美意識が貫かれた力作を立て続けに発表している彼女のこの新作では、修道女たちの苦悩とそれぞれの決断もさることながら、当時は未だ珍しかった女医のマチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)というヒロインの凛とした強さ、美しさがなんとも素晴らしい。

フランス国籍保持者の引き揚げを支援すべく、赤十字チームの助手としてポーランドに派遣されていたマチルドは、雪の中で祈り続ける若い修道女に心動かされてカトリックの修道院を訪ね、いきなり帝王切開を行うことになる。その後も夜中に独りで軍用ジープを運転して、修道女たちの診察を続けるマチルドは、大胆な行動力や機転を駆使して幾多の困難を切り抜けながら、頑なだった修道女たちとの信頼関係を築いていく。

マチルドと上司のユダヤ人医師(演じているのは『やさしい人』など、非モテ男を誠実に演じさせたら天下一品のヴァンサン・マケーニュ!)との恋愛に至らない女と男の関係など、サブ・エピソードも彼女がいかに自立した女性だったかを示していて、このようなヒロインが造型されたこと、また、そのインスピレーションを与えた女性が実在していたことにも心打たれる。
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