シロー

許された子どもたちのシローのレビュー・感想・評価

許された子どもたち(2019年製作の映画)
5.0
いじめによって同級生を殺してしまった13歳の少年、絆星(キラ)。初めは自供したものの、弁護士に唆されて撤回しそのまま不処分に。しかし、世間の目は冷たく、彼の家族は迫害され住所を転々とすることを余儀なくされる。つきまとう罪と枷。被害者と加害者、どちらにも寄り添えるような客観的な視点がすごい丁寧だった。

観ていて、初めのうちは被害者に共感していたけど、だんだん加害者側の味方(というか気持ちの寄り添い)をしていたことに気づく。そして善悪、とりわけ罪の有無の判断をすることは難しいことに気づかされる。感情論のぶつかり合い。作中にもある「いじめられる方にも原因がある」理論についてもかなり興味深い指摘がされていて、もしそのひとが誰かを傷つけているなら、それを理由にいじめても構わないのか? この問題にはっきりとノーと言えない複雑さを思い知る。感情的には支持したいけど、論理的には明らかに間違えてる。裁判所は証拠裁判主義だから証拠が不十分なら罪を問えない。しかし一般市民の行う私刑はあまりにも感情的で恣意的だ。それは我々の生活の中でも身近に溶け込んでいる。この映画の中でもそれを浮き彫りにしている。

観た感じ、物語や感情の動きに破綻はなかったように思えるし、だいぶ精緻な作り込み方をしているなっていう印象を受けた。クレジットの参考文献の数からしても相当勉強されて作られたというのは伝わるし、そういったノンフィクションから抽出したエッセンスが、この作品をより現実的に仕上げていると思う。正直めちゃくちゃ完成度が高いと思う。

昨今でも罪を犯した人(叩くに値する理由を持つ者)に対する、やりすぎるほどの誹謗中傷や犯罪行為は散見される。正義があるうちはどんなことでも許されるというような具合に。そういった背景を感じながら観ていたので、かなり面白かった。

キラは殺してしまった樹の姿を時折目撃する。これは罪悪感の表れなのか? この作品で面白いのが少年は自分の心情を告白しないこと。一応理解ある聞き手として桃子が存在しているが、彼女は彼から聞き出すことよりも寄り添うことを選んでいる。だから表情や行動から読み取ることが要求されるのだけど、その辺の描き方が難解過ぎないし安直でないバランスの良さがあった。樹の遺灰を纏いながら暴れ狂う姿はかなり印象的。個人的に桃子の立ち位置が絶妙で良かったと思う。自分だったらもっと喋らせちゃうと思うのに、彼女もまた沈黙の中で言葉を通わせていくタイプの子だった。それが伝わる演技と構成がすごい好き。
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