TAK44マグナム

カーゴのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

カーゴ(2017年製作の映画)
3.6
我が子への最後の贈りもの。


NETFLIX製作。
ゾンビ化した父親が子供に注げる最後の愛情を描いて世界中、特にパパさんたちを干からびさせるぐらい泣かせたベン・ハウリングによる短編を、同監督が長編化したもの。
一発芸というか、メインプロットだけを見せる短編ならではのインパクトがどうしても薄まるぶん、エモーションが観る者に染み込む長編はじっくりと物語を味わえるので、どちらかというとこの長編版から観たほうが良いかも知れません。


ゾンビ・パンデミックものには違いないのですが、オーストラリアの田舎が舞台なので、そこまでゾンビの数も多くなく、よほど群れないと対処も楽なためにホラー映画としての怖さは殆ど無いといって差し支えないでしょう。
ゾンビ映画だと思って構えて観てしまうと、かなり物足りないかと思います。

本作は、日常が破壊され、荒廃しつつある世界で、幼い我が子を守りながら旅するロードムービーです。
絶対的な時間の制約もあり、主人公である父親(マーティン・フリーマン)は決死の思いで荒涼とした土地を彷徨い続けます。
ただ、我が子を託せる者を求めて・・・。

愛するが故に、負の連鎖をもって起こる悲劇。
妻を失い、自らもゾンビウィルスに侵されながらも、父親は力を振り絞ります。
少しでも長い間、人でいようと努め、人でなくなってしまっても我が子への愛情は永遠なのです。
その姿に感動をおぼえた短編バージョンでしたが、本作にも当然、短編で描かれた場面が登場します。
それまでに一体何があったのか?
そして、結局のところどうなったのか?
その部分をふくらませた長編化ということでしょう。
そして、アボリジニに関する要素を新たに加え、オーストラリアの美しい大自然のロケーションの中、文明とは切り離された世界観が、どこか70〜80年代に量産された世紀末SFものを彷彿とさせます。

ある家族の選択を受け入れられない主人公・・・
ここは少し「ミスト」っぽい場面でしたが、他にも行き違いから男と殺し合いになるシークエンスもあって、定番の「人の愚かさ」が織り込まれています。

マーティン・フリーマンをはじめとした演者もみんな達者でクオリティが高く、なにより赤ちゃんがメチャクチャ可愛い!
あんな可愛い子に「パパ、パパ」なんて言われたら、そりゃ守りたいと思いますよ。

基本的な物静かな映画ですので、派手にゾンビとやり合うアクションを求める向きにはオススメしかねます(アボリジニの人々によるゾンビ狩りは少しみられます)。
ゾンビ云々を抜きにして、助けが限られた中で赤ん坊を抱えながらのサバイバルのお話なのだと、その点に惹かれるようであれば観て損はないでしょう。
観る方にとっては、半端なく感情移入できるであろう、新しい切り口のゾンビ映画でした。


NETFLIXにて