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探偵はBARにいる3のTOSHIのレビュー・感想・評価

探偵はBARにいる3(2017年製作の映画)
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前作の興行成績が振るわなかったからか、四年も間隔が空くとは意外で、監督が「あまちゃん」等の演出で知られる、テレビ出身の吉田監督に変わった事もありどうかと思ったが、探偵と高田の軽妙な掛け合いによるコンビの魅力はそのままだった。初のオリジナル脚本だが、探偵が請け負った依頼により、トラブルに巻き込まれて行くストーリー展開も、前二作同様だ。

近年の日本映画は、スマホやLINEは出てくるが、着想的にはもっと以前に作られていてもおかしくないような作品が多数を占めていると感じるが、本シリーズはノスタルジックな北海道の風景もあり、昭和的な感覚をむしろ全面的に打ち出しているのが良い(原作は平成になってからの作品だが)。ケータイを持たず、連絡先はいつもいるバー、行きつけの喫茶店(いつも食べるナポリタン)と色仕掛けをしてくるウエイトレス。移動の手段はボロ車・ビュート。ススキノの街の人情ある人達とは、皆顔見知りの探偵稼業という、古臭いハードボイルドな作品世界が心地良い。

カニを運搬するトラックの進路を車が塞ぎ、文句を言いに行った運転手の男が銃で撃たれる。それを見ていて助手席で声も出せない女。
場面が変わり、馴染みのキャバクラで起こった変態教師の客とのトラブルを解決した探偵(大泉洋)がいつものバーに行くと、近く酪農を学ぶためニュージーランドに行こうとしている高田(松田龍平)が、北大の後輩・原田(前原滉)からの、失踪した恋人・麗子(前田敦子)の捜索の依頼を持ち出す。後で分かるが、依頼料はわずか10,800円(消費税込み)だ。冒頭の助手席の女が、麗子だったのだ。
麗子のアルバイト先である、実体は風俗店のモデルクラブ「ピュアハート」に、探偵が客を装って入ると、支配人として探偵を知っているらしいマリ(北川景子)という女がおり、店を出て高田と合流した探偵を、暴力団風の男達が暴行する。波留(志尊淳)という華奢な青年が非常に強く、無敗を誇った高田もかなわない。店は花岡組の企業舎弟・北条グループの物で、マリは社長・北条(リリー・フランキー)の愛人だった。すっかり日本映画に欠かせない存在になったリリー・フランキーがまた、狂気を秘めた小悪党を怪演している。
探偵が腐れ縁の、桐原組若頭・相田(松重豊)に連絡を取ると、いきなり極寒の中、漁船の先端にパンツ一丁で縛りつけられるのが笑える。事件の背景に、進出して来た関西系の花岡組とそれを許している桐原組の構図があったのだ。
殺されたトラックの運転手・椿(坂田聡)は、北条の腹心で妊娠させたマリを捨てた男だった。運搬していたカニは、単にカニではなかった。
法的な規制が強まる現代では、歓楽街の背後にある暴力団の抗争というのも、現実にそぐわない昭和的な絵空事になりつつあるのではないかと思うが、本作の作品世界にはやはり欠かせない構成要素だ。

麗子の居場所は意外と早い段階で分かるが、探偵は再び暴行による最後通告を受けながらも、かつてススキノの女王だったモンロー(鈴木砂羽)や、新聞記者の松尾(田口トモロヲ)などのツテで、事件の真相に迫り、実は四年前、風俗の客の横暴な要求を全て受け入れ、ボロボロの状態で倒れていた所を、探偵とモンローに救われた事があったマリの、意図が読めないミステリアスな存在が焦点になっていく(救った時に探偵がマリに言った、命を燃やす物を見つけろという言葉がカギになっている)。北川景子の美しさが北国に映え、映画の醍醐味である“美女とピストル”の魅力が堪能できる。
誘い出され一夜を共にしたマリの、危険な依頼を受けてしまう探偵(マリの重大な秘密も知る)。探偵が拉致されたアジトでの、北条によるサディスティックな尋問、本人が出演する、日本ハムファイターズ・栗山監督のトークイベント会場でのかけひき等、後半のサスペンスフルかつパワフルな展開が見応えがあり、マリの意図が分かる、ラストが切ない。

不満点としては、サウナでのCGによる熱波や、終盤のスローモーションによるアクション等、不要と思える演出が散見された事、探偵とマリのベッドシーンが、事後の暗示だけで物足りなかった事、そしてテレビ的な説明的セリフが多かった事を挙げたい。キャラクター造形では、麗子が軽薄な女子大生としてしか描かれておらず出番が少なく(前田敦子は、最近こういう露出が多いが大丈夫か)、波留が単なるキレやすい男に見え、人間的な業のような物が全く感じられないのが残念だった。

前作の興行成績を受けての軌道修正なのか、全体的には前二作にあった危ない雰囲気が後退し、全世代向けのバディムービーが志向されているようだった。バイオレンス描写が減り(PG12からG指定へ)、コメディ色要素が増えている。前二作のコアなファンには、不満に感じられるかも知れないが、エッセンスは損なわず楽しめる作品になっていたと思う。
エンドロールの後のオチが笑えるが、続編を匂わせる物で、「男はつらいよ」や「釣りバカ日誌」が無き後の、一話完結型の長寿シリーズを目指してほしいと思う。
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