是枝監督は裁判の舞台裏を現実的に描く、正義の追及などではない、利害によって意見さえ、すぐに変える大人の世界である。だからといってその世界に徹底的に反旗を翻す者を登場させるわけではない。そもそも何が本当なのかも明確にわからないと静かに伝えているかのようだ。本当のことがはっきりしないというリアルさ。
容疑者三隅のことを我々は知らない。殺人の目的もわからない。
金を奪う、怒りにまかせて衝動的に殺してしまう、愛情のもつれ。それらは他者からみて共感できなくても動機を想像することはできる。
動機がわからない、想像できない場合は落ち着かない。よくわからない理由で、人は人を殺してしまうという現実を目の当たりにするからだ。願ってしまう。我々がわかる動機で殺したと言ってくれと・・・
嘘つきのクレタ島人が言った。
「クレタ島人はみな嘘つきだ。」
一体このクレタ島人は嘘をついているのか。