ちろる

三度目の殺人のちろるのレビュー・感想・評価

三度目の殺人(2017年製作の映画)
4.1
私たちはみんな空っぽの器なのかもしれない。皆見たいものだけを見るし、信じたいものだけ信じて終わりにすることもできる。

手、嘘、十字架、カナリア。
じわじわと染み込むようにキーワードを散りばめることで観る人によって恐らく十人十色な感じ方があるのだと思う。
これまでの是枝作品の軸でもある「家族」(今回は父と娘)をテーマにしながら、本当に伝えたいメッセージを独りよがりにならないように、役者の魂に委ねて伝えているような、穏やかで静かな是枝監督らしい作品だった。

この作品のメインで描かれるのは勝ちにこだわる弁護士 重盛を弄ぶように会う度に発言を変える三隅とのガラス越しの接見室シーン。
ガラス越しに重なる手とガラス板に映る2人の影が重なるシーンは、三隅の運命を握るはずの重盛側が裁かれる側である三隅にイニシアチブを取られていく絶妙な心理戦のシーンでもありその役所広司の得体の知れない存在感が恐ろしくもある。
是枝監督はこの作品で死刑廃止を訴えているわけでも裁く側を悪どく描く事もしていない。しかし事件を起こした当事者や被害者たちから一人歩きして、裁く側の司法の都合の良いようにいつのまにか捻じ曲げられて彷徨った真実達に、この三隅に重ね合わせて「一体裁判とは誰のものなのだろう」という疑問を投げかけている気がする。
作品の所々に印象的に現れる十字架のモチーフは、罪を犯す側とそれを裁く側、そして被害者もすべてが同じ立場の人間であるこのを暗に示し、マスコミも司法もそして傍観する私たちも、誰もが本当の意味で人間の「命」の重みを背負う覚悟なんかないことをこの三隅に嘲笑われている気分になる。
タイトルでもある「三度目の殺人」の罪を背負うのは誰なのか。タイトルの言葉の本当の重みを私自身も感じずにはいられないほど、心にずっとこびりきそうな秀作です。
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