Inagaquilala

三度目の殺人のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

三度目の殺人(2017年製作の映画)
4.2
間違いなく、今年観た邦画の中でNo.1の作品。ラストまで持続する緊張感、巧みに張りめぐらされた伏線、それらをきっちりと回収するのではなく観る側に委ねるという大胆な構造、「三度目」という意味深なタイトル(作品の中で殺人事件は2回しか起こらない)、そして何よりも魅了して止まない役所広司の演技。観終わった後、作品の上映時間と同じくらいそれらに思いを馳せる自分を発見する。

拘置所での面会で、福山雅治演じる辣腕弁護士と役所広司が演じる容疑者は何度も顔を合わせることになるが(都合7回)、その度にカメラのアングルは変化する。最初カットバックでそれぞれ映されていた互いの表情は、ドラマの進行とともに弁護士と容疑者がひとつのフレームに収まるようになる。秀逸なのは、彼らの対面を真横から捉えた映像。現実にはありえない方向からだが、ふたりの間を隔てる透明なボードは消え、まったく隔てるものが無いような対面の映像となる。さらに最後は役所の映像に福山の顔が映り込む。ふたりが重なり合う象徴的なシーンだ。拘置所で繰り返される面会は、この作品の根幹となる場面なので、入念にかなりの工夫が凝らされている。

もちろん、この面会のシーンだけではなく、是枝裕和監督の演出は、細部の細部までアイディアが盛り込まれ、考え尽くされている。雪原に横たわる容疑者とその娘と弁護士の3人をドローンにより真上から捉えたショット、これはほとんど神の視点だ。あるいはところどころに示される十字架の形象、是枝監督は作品を解き明かすそのようなサインを全編に散りばめている。一度だけの観賞では、この作品はなんとも勿体無い。何度か観賞するうちに、その都度新たな感動に包まれていくような気がする。

是枝作品には初めての登場となる役所広司の演技も圧倒的だ。その都度、証言や態度を変える複雑な犯人の発言や挙動を、見事に演じ切っている。役所広司でしか成し得ない、彼無しではこの作品は成立しない、そう思わせもする熟達の演技だ。物語のターニングポイントともなる広瀬すずの存在感にも驚いた。アイドル女優の域からは完全に抜け出している彼女としては演技派開眼の作品となるだろう。いま別な意味で話題を集めている斉藤由貴が広瀬すずの母親役として配されていて、どうしても現実とリンクしてしまうが、やはり味のある演技を展開している。その他、主演の福山雅治を始めとして、脇を固める吉田鋼太郎、満島真之介、橋爪功などキャスティングも素晴らしい。

それこそ日本アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞など独占しそうな気がする。とにかく是枝裕和監督、渾身の傑作であることは間違いない。
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