かじられる

三度目の殺人のかじられるのレビュー・感想・評価

三度目の殺人(2017年製作の映画)
3.9
自分の顔を見たことがありますか?

僕らは鏡やガラスを使ってしか自らを認識することができない。
顔色さえ光の加減によって微妙に色彩を変えていく。そこに立つのはあくまで仮の姿。百度立てば百度とも違う顔。

同様に、被告の三隅(役所広司)の言葉はすべて虚実であり、真実。重盛(福山雅治)がその本質に迫ろうとすればするほど、藪の中。

あるのは解釈。
それも、世間に浸透する常識という名のただの偏見。信じたいことしか信じない身勝手な忖度。

全き真実などどこにも存在しない。

咲江(広瀬すず)の言動も疑問に満ち、重盛は事件の虚点にしか辿りつけない。

ただ司法の矛盾において三人は渾然たる十字架を描く。

杓子定規な正義で被告人を断罪し、世間を宥めて平穏を装う。

問われたのはその罪なのか、本人なのか、同じ人間が同じ人間をどう淘汰するのか、幾重にも重なる人間性に肉薄できるのか。

裁かれたのは接見室の向こうでなく、良識と呼ばれるこちら側だ。

その虚偽に隔たりはなく、両者は皮肉にも重なり合う。

誰とも知らず最初の一歩を進め。迷妄の末、立ち止まるその十字路で。
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