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三度目の殺人のERIのレビュー・感想・評価

三度目の殺人(2017年製作の映画)
3.9
まるで空っぽの器みたいだ。

役所さんのつかみどころのないキャラクター。静かなサイコパスみたいで本当なんて全く見えない。彼の証言はコロコロ変わる。2度目の殺人をしたという男。三隅。

彼は会うたびに人格が変わる。

赤いコートを着た少女は足を引きずっている。生まれつきのはずなのに、周りには工場で怪我をしたと言っている。殺人の起きる前、彼女は三隅のアパートに通っていたらしい。咲江。


切り取られる画がとても綺麗で、それがとても怖くてどんどん映画の中に引き込まれてしまう。まず音の使い方が秀逸でこの世界にどんどん入ってしまうし、構図の表現もお手本みたいに心地よい。その中で人間は、とても歪んでいて不恰好で不器用でぞわぞわして、時々愛おしい。

弁護士の重盛は、法廷戦術を考えながら事件を扱う弁護士。本当のことではなく物事の組み立てられた側面に、有利になるように光をあてる。そんな彼が三隅の事件では自分らしくなかった。

手。三隅の手は、饒舌だ。

重盛と三隅の面会の時間。彼は、僕と同じことを言う。命は理不尽に選別されている。裁判官は人の命を自由にできるじゃないか、と。人が人を裁く。この行為に対する一連を、三隅はまるで達観してみているみたいだった。真実を伝えるためではなく、筋書きを言うのだ。まるでセリフみたいに。

咲江は裁判があった後、重盛に告白する。父親から受けていた性的虐待。三隅は自分のためにやった、と。それを告げると三隅は話し出す。本当は俺は殺していない、と。真実は一体どこにあるのか。その言葉を信じるのはそうあってほしいと願うからか。


役所さんがうますぎて、もはや怖いぐらい。広瀬すずちゃんもこの役はとても良くてこの錚々たる顔ぶれに負けてない。

三度目の殺人というのだから、この公判を殺人と暗喩してるんだろうけど。その時そこでは何が起きていて、誰が罪人なのか。人が人を裁くということは、どういうことなのか。考えさせられる。答えなんて全然出ないけど。

本作で是枝さんが描きたかったのは、この殺人事件の真実ではなくて、事件を裁く過程で実際に起きてる日常的会話、忖度、アイコンタクト、弁護する人間のスタンスや暗黙の了解なんだろうなと私は受け取る。それこそが一番怖かった、人を殺すこと以上に。
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