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海底47mのsanbonのレビュー・感想・評価

海底47m(2017年製作の映画)
3.5
この映画で本当に怖いのは人間(船長)だな。

海中でサメに急接近出来るアクティビティって、営業許可申請とかかなり厳しそうなのに、劇中に登場する船長は安全管理の観念がよほどぶっ壊れてるのか、海水でサビサビになったままの今にも底が抜けそうなケージを、同じく今にもポキッと折れそうなクレーンに吊るして、陽気にお客さんを招いている。

しかも、ふざけた事に予備で装備してるワイヤーですら、素人目にも分かるくらい絶対に正規使用を想定していないであろう細さって、マジで人の命を軽く見過ぎである。

そんな「海外旅行でモグリのアクティビティには参加しちゃいけないですよ」という啓蒙活動促進にはもってこいの今作。

ただサメを間近で見たかっただけの姉妹は、船長のあり得ないほどずさんな営業態度のせいで、死ぬほど怖い体験をする事になる。

大体、海外の人ってどこか思慮が浅いというか、ノリで生きてるような人がやたらと多い気がするのは単なる偏見だろうか?

仮に、日本で同じ事故を描くとしたら、恐らく物語の争点は"どうやって助かったのか"ではなく、"何故事故は起こったのか"をテーマにとりあげた映画になると思う。

そのくらい、個人経営だからとか関係なく、安全性に対する意識がズレていると感じる。

安全を確保し維持し続ける為には、馬鹿にならないコストがかかるのは分かるが、危険性を伴う業務には万が一を想定した対策を常に行う義務がある。

なにより、そうしないと人命を危険に晒す以前に、その何かがあった際に自分自身の人生が終わってしまうからだ。

そのリスクを承知で、ルールに従順な人間しかこういう仕事はしちゃいけないし、意外とそういう仕事はめちゃくちゃ多い。

分かりやすい例として建築系の工事現場なんかは、そんな事物心ついたばかりのガキじゃないんだから、わざわざ言わなくても別にいいだろって事をわざわざコストをかけて注意喚起したりする。

これは、注意しないとやっちゃう奴がマジでいるという事実以前に、現場としてはしっかりと対策をとっているという、自分を守る為の建前的な保険の意味合いの方がどちらかというと強かったりする。

一度現場内に入ってみれば分かるが、馬鹿を相手にしているつもりがなくても、まるでそう見えてしまうくらい、色んな細かいルールで溢れ返っているのを理解してもらえると思う。

でも、その過剰なまでの対策をやっておかないと、もしもの事があった時に、それがどんな些細な事故でも大問題へと発展してしまうのが、危険作業を伴う職場の実情であり責務なのだから仕方がない。

普通なら、そのくらい過敏に運営していくのが、スリルを売りにした商売に対する最低限のリスクだと思うのだが、今作の船長にはそういった概念が驚くほどに希薄でかなりイラつく。

だからなのか、なにかトラブルが起こればまずは即座に連絡をとるであろう、海難救助隊への要請も何故か後手後手。

まあ、そりゃそうだ。

これが明るみにでれば、あの船長普通に逮捕だもんな。

劇中では全く触れられていないが、恐らく海上ではそんな葛藤が密かにあったに違いない。

結局のところ、この悲劇を招いた原因は"安全より目先の利益"を優先し、"人命より自らの保身"を重んじた"船長の悪意"によるものなのだから、それに比べればサメなんて可愛いもんだ。

そして、今作では海底にとり残された姉妹に差し向けられた追加の酸素ボンベが、更なる悪夢を招いてしまうのだが、その展開はパニックムービーとしては一捻り効いた特異性があって、非常にいいアクセントとなっていたのだが、全体としては仄暗い海中で視界不良の地味〜な絵面が結構長尺を占めているので、中弛みを感じる時間も多かったように感じた。

まあ、それに関しては息苦しさと緊張の演出だと理解はしているので、劇場の大画面で観たらまた一味違う印象だったのだろうが、TV画面での鑑賞だとどうしてもそれがプラスには転じにくかったのは残念であった。
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