なっこ

海辺のリアのなっこのレビュー・感想・評価

海辺のリア(2017年製作の映画)
3.4
1人の老人がスーツケース片手にトンネルを抜けて出て来るとこらから始まる。それがどこで、誰で、いつなのか。どこへ向かうのか。多くの情報は削ぎ落とされた形で提供される。まるで理解を拒むように。

そして海岸で一人の女を追い越す。どうやら彼女は知り合いだったようだ。

まるで海辺が一つの舞台。かつて俳優だったという男の語りが始まる。

でも、こういう世界で生きているのかもしれない、認知症または、狂ったと呼ばれる人たちは。頭の中から記憶が消えていく、抜け落ちて行く、目の前の人は一体誰なのか、今日がいつの日の続きなのかさえも分からない。

かつての遠い記憶は鮮明にあるのに。

カメラの外側にある世界、このフレームの枠の外を強く意識させられる。例えば波打ち際を遠く向こう側から真っ直ぐに歩いてきて、固定されたカメラの横をすり抜けて行く、なのに次のシーンではまたカメラから距離をおいて歩いてくる。なのに背景に写り込んでいた海の家の位置はさほど変化していない。あまり移動していないのだ、その繰り返しが、デジャブのようで、繰り返される悪夢のようでいて、不思議な映像空間を創り出している。これほどカメラに写っていないこちら側や両サイドを意識させられたことはない。その空間を使う巧みさ。特にラストシーンはそれが救いとなって現れる。
場面の終わり、はい、暗転。そこまで待って舞台袖から救いの手が差し出される。私にはそんな風に見えた。

何よりも仲代達矢さんの演技に引き込まれて、セリフに魅せられて、気が付いたらどアップになってても全く気が付かないほど。目で追いかけてしまう。

この削ぎ落とされたお話に、私なりのハッピーエンドを付け足すことが許されるのなら、この登場人物たちの幸せなその後のstoryを考えて、心の中で贈ってあげたいと思う。
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