Qちゃん

クローゼット・ランドのQちゃんのレビュー・感想・評価

クローゼット・ランド(1991年製作の映画)
4.7
この映画、凄いです。完璧なオリジナルの台本、それを完全に生かし切る役者、洗練されつつ硬質で冷酷な舞台美術に演出、それを静かに引き立てる衣装、ライトや音響…その何もかもが。背筋凍ります。(ちなみに衣装と舞台美術はコッポラの「ドラキュラ」でアカデミー賞獲ったデザイナー石岡瑛子さん!さっすが!他にも「ザ・セル」やシルク・ド・ソレイユの「ヴァレカイ」の衣装など、この人のデザイン大好き!)

登場人物はアラン・リックマンとマデリーン・ストウただ二人のみ。場面もわずかな回想シーンを除いてほぼ尋問室の一室のみ。その閉鎖的で冷たい空間で93分間、無実の女性作家に対する政府職員の残酷な尋問・拷問が展開される。といっても、バイオレント映画のように直接的に身体的暴力を見せることはあまりなく、むしろ女性はプライバシーや精神的な領域を踏みにじられ、心理的に追い詰められていく。その見せ方が、女性の恐怖がそのまま伝わってくるほど巧い。

とにかく二人芝居であるため、否が応でも二人の役者は比べられ、その真の演技力を問われる。だが、どちらも引けをとらないほどの演技を見せている。最大の見せ場はアラン氏の緊迫の一人三役シーン。声色・アクセントを三人分見事に使い分け、スピードのある会話を全て一人でこなし切っている。画面を見なければ、まるで別人が演じているのかと思うほどの出来栄えで、彼の役者としての力量の凄さに感服した。

この映画は拷問や抑圧的な政府体制(というかこれは全体主義的政府)に対する批判を行っているだけでなく、幼児虐待の残す深いトラウマや、人間の持つ弱さや恐れ、屈折した感情、それらを超えてなお残る精神の強靭さなどを、痛々しいほどのやり方で描いている。それらをより強調するために所々挿入されているアニメーションが、これほど実写と効果的に共存している映画も稀だ。

たった一つどうにかして欲しかったのは、あるシーンでアランの声を拾っていたマイクが数秒カメラにハッキリ写ってしまっていたこと!こらマイク~~ッッ!!なんで音拾うの大して難しくもなさそうなシーンでしっかり画面に出てきてるんだぁぁぁ!!

「パフューム」と同じく、映画としてクセがあるので、誰にでも喜んで薦められる作品ではないし、受け入れられるかどうかも人によると思うが、個人的には非常に良かった。DVD出たんだね!よかった~♪
Qちゃん

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