MasaichiYaguchi

ライ麦畑で出会ったらのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ライ麦畑で出会ったら(2015年製作の映画)
3.8
青春小説の金字塔「ライ麦畑でつかまえて」のファンの人、そして未だ読んだことがない人でも、1969年、アメリカ・ペンシルベニア州で我こそはJ.D.サリンジャーの理解者であると自認する高校生ジェイミー・シュワルツが、この小説を舞台化する許可を得る為に隠遁生活を送る原作者を探し求める旅を描く本作を観ると、自らの10代後半の日々が蘇ってきて懐かしい気持ちになるのではないかと思う。
私もジェイミー・シュワルツと同様に10代で原作と出会い、小説の主人公ホールデンが抱く欺瞞に満ちた社会や大人たちへの嫌悪感に共感しながらも、彼のように行動出来ない不甲斐なさを覚えたのを思い出す。
本作の主人公ジェイミーは兄の勧めで入った名門校に馴染めず、その独特の感性もあって〝浮いた存在〟になっている。
そんな彼を精神的に支えるのが「ライ麦畑でつかまえて」であり、演劇部員である彼は、この愛すべき小説を舞台化することによって自分の〝居場所〟を見出そうとしているように思える。
だが、隠遁生活を送る原作者の居所は杳として知れない。
そんな折に起こった〝或る事件〟を切っ掛けに、彼は原作者探しを決意して旅立つのだが、この旅には彼の理解者である少女ディーディーが同行する。
心強い存在である彼女の叱咤激励を受けながら、僅かなヒントをもとに〝居場所〟を目指すジェイミーだが、果たして探し出すことが出来るのか?
この映画は監督であるジェームズ・サドウィズの自伝的作品で、ほぼ実話ベースに描いているとのことだが、主人公の〝根拠のない自信〟やそれに突き動かされての行動に半ば呆れながらも、その〝若者の特権〟が眩しく、羨ましく思える。
この青春ロード・ムービーは、過去の名作同様に旅の中で主人公が自らを見詰め直し、愛や友情、そして死と向き合う中で大人になっていく様をほろ苦くも優しいタッチで描いていて心に余韻が残ります。