海外版ディスクで鑑賞。英語字幕はあるが台詞は殆ど無いので、英語が拙い私でも鑑賞可能でした。
傑作。ラブストーリーでもファンタジーにもホラーにも属さない唯一の作品。
CとMはテキサスの一軒家に暮らす夫婦。夫のCは音楽家。ある日、交通事故でCが亡くなってしまう。病院に安置されたCの遺体、であるものが起き上がる。彼はシーツを被った幽霊になって、妻と暮らした家へと帰る。
霊は人に憑く。家に憑く。
残された物の想いはやがて時間が昇華するが、残した方の想いはどこに行くのか。
一軒の家。そこに暮らす夫婦。その小さな対象から展開される物語の拡がり。その拡げ方、行き着く先の見事さ。まったく他には無い映画だった。
角の取れた正方形の画面はユニークで、台詞はほぼ無く美しい音楽だけが時々流れる。
そこに人が生きているだけの長まわしのショット。生きている音だけの空間。画面の隅にあるピアノ。画面の隅にいる幽霊。
観終わったあとで、幽霊の彼が愛おしくて堪らなくなった。どうか彼の終着点を、彼の物語を。A Ghost Storyを見届けて欲しい。
主演のケイシーは出演時間の9割方ずっとシーツを被っている。マンチェスター・バイ・ザ・シーで世を圧倒させた、台詞の要らない彼の演技力の真骨頂。
シーツは全身をすっぽりと覆い、頭の先からつま先まで画面に映ることは無い。でも分かる。そのぽっかりと開いた穴でしかない目から、シーツを持ち上げる指先から。彼の焦がれる想いと一途な恋しさが。
ケイシーは時間に取り残された役が、置いていかれた場所で届かないその人を想う役が似合うと常に思っているのですが、同じようにロウリー監督は、何か1枚隔てた先の遠くから、その人の幸せを願うのを撮るのが上手いと思うのです。ロウリー監督の撮る画に、ケイシーは本当によく似合う。
この超超超低予算の作品は、ロウリー監督が彼のミューズであるケイシー・アフレックとルーニー・マーラに「夏休みの間に内緒で映画を撮ろうと思うんだ。エージェントにも秘密で。手伝ってくれないか?」と声をかけて実現。カルロヴィ・ヴァリ映画祭では主演男優賞を受賞している。
ロウリー監督はこの3人でコンスタントにこれからも映画を予定であるらしい。ファンとして、とても楽しみ。
配給会社は話題のA24。ここはプロモーションもユニーク。今作の主人公である幽霊になれるシーツを、通販や旗艦店で販売していた。購入者はもちろんSNSに投稿。面白い!私も欲しかった!(どうやら海外発送は無かったみたい…)
CとMのキスシーンの美しさは、映画史に残したいベストキスシーン!