秋日和

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーの秋日和のレビュー・感想・評価

5.0
住んでいた家を離れる際、その家のペンキを塗り直す文化がアメリカにはあるらしい、ということを『6才の僕が、大人になるまで。』を観て知った。大袈裟に言うなら、誰かが家に住んでいた期間はその人たちにとっての「歴史」だから、ペンキを塗り直す、ということは家の歴史を更新する、ということなのだと思う。壁を伝うペンキの涙もやがて層の一部として固まり、その層にまた別のペンキが来る日もそのうちにやってくるに違いない。住んだ人の数だけペンキの層があり、もしかしたら層の数だけゴーストも存在していたのかもしれない。柱のペンキをカリカリと削っていくゴーストの姿は、まるで自分の知っている「歴史」まで遡りたいが為の行為のようにも見えた。時間を巻き戻すことは出来ないにも拘わらず。
巻き戻せない時間、失っていく記憶、そして変化していく周りの環境。パーティーの場面で酔っ払いの男が口にした言葉たちを鵜呑みにするのならば、ルーニー・マーラはふとした瞬間に、ケイシー・アフレックの残した曲を口ずさむことがあるのかもしれない。ゴーストでさえ目撃することの出来るこの映画において、ただ音だけはこの目で見ることができない。
映画の序盤でルーニー・マーラがごみ捨て場に放り投げたトランクに、ついたばかりの灯りの光がスッと反射したその決定的な瞬間から、ずっとスクリーンから目を離すことが出来ない。光と音に包まれた、あまりにも静謐な傑作だと思う。