しの

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのしののレビュー・感想・評価

3.5
時間を超越した死者の視点から世界を眺め、万物が変化し必滅するこの世の儚さを確認するとともに、その中にあってなお何かを遺し前進することの尊さを感覚する。私的な物語から超自然的で観念的な「願い」への飛躍がやや飲み込み辛いが、消え難い余韻は残る。

時間感覚を映像化する試みは面白い。生者は時間の進行に囚われた存在であり、有限の中で生を営む。一方、死者は未練や想いに囚われ、時間はそれに合わせて主観的に変動する。長回しによって時間を意識させたり、反対に時間を瞬時に跳躍させたりすることで、この対比を映し出す。

宇宙の星と部屋の灯りのオーバーラップや、ある男の長い講釈などにテーマが示唆される。この世に永遠などないということを、本作は最後まで否定しない。しかし同時に、生者は「遺す」ことで有限の生を突き進むのだし、死者は「遺された」ものによって未練を克服する。

ふたりの幽霊の顛末が象徴的だ。あの差に価値を見出せるかどうかなのかもしれない。もっと言えば、その差は生者が「遺した」からこそ生まれたのであって、この意味で生者の営みに対する救いや願いも込められている。 (詳しくは https://fse.tw/Q88g0#all ※リンク先ネタバレ有)

従って本作は、よくある「死の克服」みたいなものではなく、むしろ避けられない滅びの運命にあっても何かを遺して前進することの尊さを描いているのではないかと思う。

自分は現実と虚構が相互作用する物語が好きなので、本作のように、現実的な喪失の物語から始めておいて、最後まで一貫して虚構(ゴースト)側の視点で突き進むのは飲み込み辛かった。もっと生者側の視点での救いがあって欲しかったが、そうすると作品のコンセプトに反するので、これはこれで一貫しているのだろう。ただ、「あるかもしれない」と思わせていた虚構のレベルを踏み越えてしまう中盤の現象は一貫性を失わせていたように思う。
しの

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