ボサノヴァ

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのボサノヴァのレビュー・感想・評価

4.0
ユニークな造形のゴーストが、時空を超えつつ、ゆらゆらと彷徨う話。癒された。

しかし、ストーリーにはなかなか切れ味があって、油断していると「人は、生きている間に何かを成し遂げたり、何かを後世に残さなければならないのか?」という重たいメッセージを突きつけられる。

主人公は宅録ミュージシャンであり、妻に宛てたとも言える渾身の一曲について、彼女のちゃんとした評価を聞かないまま不慮の事故で亡くなってしまった。その無念が、彼をゴーストとして生まれ変わらせたのだ。

途中、ある人物が雄弁に語った「全ての創作物には意味は無い。だって、世の中の物質はいつか無に還るのだから」という身も蓋もない愚論への答えを探して、未来へ過去へと漂うケイシーお化けの佇まいが切ない。このあたり、有名どころのケイシー・アフレックを擁しながら、ほぼ全編シーツを被って表情を見せなくする演出が効いている。もしこれで、いかにも幽霊です的な、透明になったケイシーの顔演技なんかを見せられていたら、興醒めだっただろう。

ラスト、その旅は終わりを迎え、件の問いに対する回答が示されるが、これが優しくも、儚い。子供がいなかった2人。そして、ミュージシャンとして決して成功しているとは言えなかったであろう彼が、この世に生きていた証。その表現者としての矜持が、自己満足の領域を超えた時、この物語が生まれた意味として結実するのである。
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