mimitakoyaki

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

4.3
突然事故で死んでしまった夫が、ゴーストとなって、妻と暮らした家で妻を見守り成仏するまでを描いた不思議で静かな作品。

シーツを被ったオバケだなんて、子どもの頃にイメージしてたオバケで、その姿を見るとコメディっぽくもありますが、シーツを被ってるために表情が見えないし、ただそばでじっと見守っててあまり動きもしないのに、その静かに佇む姿になんとも言えない哀愁があるし、愛する妻への思い、妻と過ごした家への思いが伝わってくるんですよね。

妻が引っ越していなくなってからも、妻との繋がりを感じたくて、もう一度会いたくて、妻が残したメッセージを読みたくて、死んでも死にきれずにずっと待ち続ける切なさ…。

愛する人に死んでからも思っていて欲しい、忘れないで欲しい、自分が生きた証を残したい。
自分が確かに生きていた記憶が失われる時、自分の存在がなくなって本当の死が訪れるのかもしれません。

つい数日前、高校生の息子の同級生が事故で亡くなりました。
その子と会ったこともないし顔も知らない子なのですが、突然命が失われてしまう事の恐怖を感じました。
思いがけず、こんなにあっけなく終わってしまう。
あまりに短かったその子の一生と遺された家族の事を想像してとてもショックで悲しくなりました。

もし自分なら…?
お別れも言えず、感謝や愛する気持ちも伝えられないままあの世に行けるのだろうか?

わたし自身は神様や死後の世界や霊などは信じてないのですが、死んでもなお大切な人と繋がっていたい、そばにいて感じていたいという気持ちはすごくわかります。

パーティのシーンである男が、生きた証を残しても無意味だという事を言うのですが、例えばフレディ・マーキュリーのように、素晴らしい音楽を残し、彼の死後も愛され続け語り継がれていく、そんな偉大な人もいれば、わたしなどは子ども達がいなくなる頃には自分の生きた痕跡はなくなってしまうんだろうと思うのです。

だけど、形として何も残らなかったとしても、自分がしてきた事や思い出が、家族や大切な人の中に残っていったりもして、そのほんの小さなかけらが次の世代にも渡っていくのかもしれません。
生きていくというのは、そんな連続した営みなのかなと。

わたしもきっと両親が受け継いできたたくさんのものを引き継いでわたしの中にあるのかもしれません。

映画を観た後も余韻を引きずって、死ぬことについて、生きることについて考えてしまう、そんな作品です。

愛する夫が突然亡くなっても、泣きわめいたり取り乱したりせず、だけど大きな喪失感と哀しみを感じさせるルーニー・マーラの静かな演技も心に残りました。

カメラを固定してひとつのシーンを長回しでじっくり撮る事で、言葉がなくても愛や哀しみが人物の行動や表情や無人の部屋からも伝わるし、映像が美しかったです。

動きもセリフも少ないですが、生と死、人間が生きてきた営みの歴史という壮大なテーマと、一人の男のパーソナルな愛の物語が重なり合って心打たれました。

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