dm10forever

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリーのdm10foreverのレビュー・感想・評価

4.2
【終着駅】

これはきっと好き嫌いがパックリ分かれるんじゃないかな?
僕は好きですよ、かなり。

なんか、撮影方法やカット割なんかをみても、ほんの一瞬を意識したアングルだったり、画の撮り方だったり。劇中に流れる音楽もSE程度の本当に優しくて心地よい音。

台詞が極端に少なくとてもファンタジックなのにどこかリアルで、ゴーストが主役だけど不思議と恐怖はなくて・・・。
全体的にセピア色な画面は切ない物語を演出するだけではなく、どこかアート作品を見ているかのような美しさすら感じました。

ただ、やっぱり最後のMのメモの意味は気になりますよね・・・。
キーワードは・・・コメント欄に書きます。


物語の根底にあるのはC(ケイシー・アフレック)とM(ルーニー・マーラ)の愛の物語。だけど基本的な立ち位置はCの視点を通して描かれます。

―――愛する妻Mと穏やかに暮らすCは不慮の事故で突然この世を去ってしまう。
遺体安置室で残酷な事実を目の当たりにしたMはあまりのショックに、早々とその場を去ってしまう。
すると遺体にかけられたシーツがスッと起き上がり・・・。

まずM(ルーニー・マーラ)が美しかった。凛とした佇まいと裏腹に、ひたすら悲しみに耐え忍ぶような切ない表情からはCを失った喪失感がビンビン伝わってきて、こっちのほうが先に泣いてしまうそうなくらいでした。

で、成仏し切れなかったCはゴーストとなって彼女の元へと戻ってくるんだけど、途中、「広い草原の中をゆっくりと歩くゴースト」という不思議な絵がとてもきれいで、でも明らかに「ここに一人きり」という異質な空気感でもあって・・あれは独特な描き方(シーン)だと思います。
僕はとても好きな表現。

劇中、Mがリンダの置いていったパイをひたすら食べ続けるというシーンがあったけど、音楽も台詞もなく、かといって何か感慨に浸るわけでもなく、ただひたすら何かにとりつかれたかのように食べ続けた。

あのシーンの尺は実際はどれくらいあったんだろう?
5分くらい?
結構長く感じた。
だけど、何故か目が離せなかった。
悲しみ、やるせなさ、孤独・・・受け止めきれない様々な感情を追い払うかのように無心で食べ続けるM・・・。
ほぼ動きのないシーンをひたすらワンカットで回し続けた結果、画面に映らない心の動きや、心の叫びが手に取るように分かる名シーン。
ただパイを食べ続けるMを観て泣く僕という不思議な構図。
でもこのシーンも実は大好き。

この映画は極端に台詞を少なくし、かといって役者の表情をひたすら映し続けるわけでもない。
どこか抽象的で、まるで絵画を見てその絵に込められた真意や想いなど何かを感じ取るかのような映画だと思う。

根本的に霊現象を積極的に肯定する派ではありません。
でもかといって100%否定派でもありません。
(いるかもしれないよね、いたっていいよね)っていうニュートラルなスタンス。

だから、今作のゴーストの表現方法がとてもシンプルで受容れやすかったというのも自分にとってはプラスだったかも。
なんならパッと見は「オバQ」ですよ(笑)。
でもそれが単にオバQに見えなかったのは、ゴーストという実体を持たないであろう存在を印象的に表現する方法として、とても上手だったから。

怖がりな人が風に揺れるカーテンを見ただけで「オ、オバケ!」ってなるのと同じような感じだと思う。
でも目の部分をくり抜いただけの、映画史上最も簡素なゴーストが実に表情豊かに語りかけてくる様子は本当に上手かった。
中に入ってたのがケイシー・アフレックかどうかは定かではないけど、でもあのシーツを通して「悲しい表情」や「怒っている表情」が見えてくる気がするのだ。
一言も発せずに。

物語の途中で同じように隣家に留まっているゴーストの存在に気がつくC。
向こうも同時に気がついて思念で挨拶を交わす。

《こんにちは》
《何をしているの?》
《待っているの・・・。でも何を待っているのか忘れたわ》

それは人間だった時に自分を支配(コントロール)していた理性や心というものが少しずつ失われていくことを現す象徴的なシーン。
同じくゴースト(C)も段々と特定の物への固執などが見られ始める。そしてMへの愛情が段々と概念化していく過程で、最後まで彼を繋ぎとめていた「Mのメモ」・・・。

ラストは色んな感情が一気にブワッと噴出すような終わり方で、ちょっと前に見た「フロリダ・プロジェクト」のような、感情のピークで一気に暗転!というある意味では「えっ?!」系の終わり方です。

ただ言えるのは
「切ない・・・でも、やっと辿り着いたんだね」
だけど・・・やっぱり切ないね。

物語全体のトーンがとても穏やかで、色合いもセピア色。
音楽もとにかく控え目で、自然の音(雨の音や鳥のさえずりなど)を効果的に使っていたし、最後までブレずにゴーストの視点で描ききって、それでも一切破綻しないままのラスト・・・。

久々にラストカットを見た瞬間に震えました。もちろん感動の方で。

何度も言いましたが台詞が少ない分、見ている側の感覚的な部分に訴えてくるような部類の作品かもしれません。

ですが、フランス映画のような難解さもなく、風の匂いや音を肌で感じるような優しい感触の作品でした。
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