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夜明け告げるルーのうたのemilyのレビュー・感想・評価

夜明け告げるルーのうた(2017年製作の映画)
3.9
 さびれた漁村日無町(ひなしちょう)で暮らす中学生のカイは父親と祖母の三人暮らし。両親は離婚し、東京から田舎へ戻ってきた。なかなか周囲になじめないでいたが、音楽だけは心を穏やかにしてくれた。クニオとユウホから「セイレーン」というバンドに誘われ、人魚時まで練習していると、音楽に吸い込まれるように人魚のルーが現れて歌って踊り始めたのだ。ふてくされたカイの優しい心に溶け込むようにルーは三人と音楽を奏でる。この町では人魚は災いをもたらすとされてきたが、ある災害がそれを翻していく。

 ポップかつキュートなキャラクターの数々水を纏い、水を操り、壮大な水を用いてのファンタジーとリアルの交差。音楽とダンスが陽気にみんなをまとめあげ、シンプルな言葉こそ口に出すのが難しく、しかし人と人をつなぐのはそんなシンプルな言葉であることを、人魚や子供達の力により、大人たちもまた考え学ぶストレートなメッセージ性だが嫌味なくその世界観に魅せられる。

 特に水を使って人魚達の動きは下から大きく壮大に見せ、ポップな作画もビビットカラーやタッチの違う作風もよいアクセントと心情描写と交差し、スクリーンを見ながら、ついついそのスピードや切り替えに飲み込まれるように見上げたり、感動して涙したり、音楽に合わせてリズムを取ったりと、参加している気分を味わえる。人魚に噛まれたら犬も人魚になり、魚も人魚になる。人魚との境界線、自分が理解できない物を排除してしまう人間の心理の溝を少し埋めて、距離感を縮めていかれるような、すべてはみんな友達へまとめあげていくのだ。

 ルーの言う「みんなともだち」は単純なようで難しい課題である。見た目や先入観はいかに無意味で、実際箱を開けてみないとその中身は一切分からないことを改めて考えさせられる。自分の理解できない物体は排除し、勝手な先入観は自分だけでなく、守るべき物にも強いる事になる。防御線を張って自分を家族を守る事は心を狭くし、平和を願いながらもそれは真逆な方向へ向かっていく。「みんなだいすき・・」簡単で難しい言葉。「だいすき」と言葉にすればさらにその人への気持ちも大きくなる。それは自分に言い聞かせるための言葉かもしれない。さらに音楽とダンスは人を笑顔にし、伝えれない言葉も大便してくれる。メロドラマに転ぶ事なく、あくまでファンタジーの枠組みの中に、毒気を備えながら、丁寧に心情を紡ぎあげていく、青春物語でありながら、平和を唱える作品でもある。そうして見終わった後は下へ向かう足取りが軽くなる。
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