いののん

ワイルドライフのいののんのレビュー・感想・評価

ワイルドライフ(2018年製作の映画)
4.1
14歳の少年ジョー。彼を通して映画は語られる。


山火事の中で、燃えなかった木。14歳の少年ジョーの周りでは、山火事が起こっている。父は山火事の消炎作業へと出掛けたが、それはうまくいかない日常生活から逃げたようなものだ。母は、そこから、たがが外れてしまった。良き妻良き母、それを続けることの意味がわからなくなってしまって、まるで迷子の子どもみたいに、迷走しはじめた。大人がオトナだとは限らない。


少年は、父・母・母のお相手に対して、カッとなってあおり運転しちゃっても、この場合に関しては、あおり運転された方に否があるような感じなのに。なんてボクは不幸なんだと、グレちゃっても、ちっとも不思議じゃないのに。悪態をついて反抗したって、まったく不思議じゃないのに。

ポール・ダノは、よくボコボコにされてきた。この少年ジョーは、精神的に、ボコボコにされている。だけど、少年は、持ちこたえる。火事が迫ってきても、持ちこたえる。燃えなかった木。彼が、「勉強したい」というと、私はホッとする。父にも母にも優しくて、正しくあろうとして、持ちこたえていく。すごく偉い。


雪がふれば、山火事はおさまるだろう。雪がふったら、この家族の山火事も、静かにおさまっていくだろう。山火事は悪いことばかりではない。燃えた草木は灰となって、豊かな土壌を作り、そこからまた草木が生えてくる。


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・キャリー・マリガンの加齢ぶりにビックリ。といっても、私は「Drive」と「未来を花束にして」しか観たことないけど。34歳という設定のようだったけど、それよりずっと年上に見えた。でも、“34歳だけどそれよりずっとくたびれていて40代にみえる”という設定なのかもしれない。女優、恐るべし。

・子役時代からずっと演じてきているジェイク・ギレンホールは、抑えた演技で、でもプライドとかいつまでもオトナになれないところを見せながらも、少年ジョーを役者としても見守っているように感じた。

・カメラはずっと静かにゆっくり構えている。1カ所だけ動きが速くなったところがあって(少年が振り向いて駆けだしたところ)、もしかしてここが勝負所かも、と。

・監督も脚本もつとめたポール・ダノ。よくやった、なんて書くと偉そうですね。次回作にも期待したい。

・ヨハンヨハンソンを偲ぶとのクレジットが。


追記 2019.8.20.
他の方のレビューに、ゾーイ・サガンも脚本に携わったとありました。ポール・ダノとゾーイ・サガンが交際していること、両者は昨年女児を授かったことなども、私は全然知りませんでした。そう考えると、この映画に込められた子への思いの深さや、親がどうであれまっとうに育ってほしいといった願いなども、よりいっそう伝わってくるように思います。
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