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さらば愛しきアウトローのGのレビュー・感想・評価

さらば愛しきアウトロー(2018年製作の映画)
4.7
いまだかつてこんなに幸せな映画があっただろうか。今作品を引退作に選んだロバート・レッドフォードが紳士的な銀行強盗を演じる、それだけで十分喜びに満ちているのにここまで多幸感に満ちているのは何故だろう。
 
ロバート・レッドフォードといえばハリウッドを代表するイケメン。代表作は数知れず、「明日に向かって撃て!」「スティング」「大統領の陰謀」など。すなわち70年代の「顔」のような映画に出ていた。その頃は、彼はハリウッド切っての二枚目と呼ばれ、当時のイケメン俳優ランキングみたいなのには必ずランクインしていたそう。また、監督業においても成功を収めており、『普通の人々』(80年)ではアカデミー賞作品賞を獲得している。演技においても制作においても業界に偉大な貢献をした「偉人」の一人なのだ。そんな彼が81歳になり、深味を増した2018年。キャリアハイの成熟を迎え、映画を充分にやり尽くした彼が俳優引退作として選んだのがこの「さらば愛しきアウトロー」なのである。

レッドフォードが演じたのは実在する銀行強盗、フォレストタッカー。何度も銀行強盗と脱獄を繰り返したアウトローなのだが、面白いのは彼は一度も人を傷つけなかったということ。どういうことかというと、彼はコートの中の拳銃を銀行員にちらりと見せると「バッグに現金を詰めて欲しい」とフレンドリー、かつ紳士的にお願いするのだ。彼が襲った銀行にたまたま居た刑事(ケイシーアフレック)が強盗事件が起きたことに気づかないほどのスマートさがそこにはある。

この作品全体を包み込むのは優しく、愛に満ちた雰囲気である。その愛はもちろんニューシネマに向けられている。レッドフォード自身のキャリアに同調するような部分はニューシネマ的リズム。心奪われた恋人(シシースペイセク)との会話は大人の余裕に満ちていて、味わい深いロマンスだ。ここで描かれる登場人物、そしてセットや衣装などの静物までもがレッドフォードに惚れ抜いてしまったのが伝わってくる。

私のお気に入りはレッドフォードが馬に乗ってパトカーを見つめるショット〜過去の脱獄のハイライトのシークエンスだ。まるで俳優としての「ロバートレッドフォード」の人生を駆け巡るかのようだ。「明日に向かって撃て!」から始まった彼の人生のハイライトを穏やかな気持ちで観ていると思わず涙が溢れてくる。レッドフォードに対する敬意と感謝に満ちた最高のサービスシーンだ。だからこそ最後の明るく、軽快なラストシーンでは軽い衝撃とともに、彼が再びスクリーンに戻ってくるのではないかと期待して笑みがこぼれてしまう。

ロバートレッドフォードが今まで世界に送り出してきた数々の名作。そこには常に男としての矜持とアウトロー的なカリスマ性があった。それらは我々に「映画」という夢を与え続けてくれたのだ。そんなレッドフォードは俳優としての引退を発表した今作に満を持して取り組んだ。そんな本作に付けられた邦題には我々の彼に対する想いが込められている。

『さらば愛しきアウトロー』
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