まちゃん

羅生門のまちゃんのレビュー・感想・評価

羅生門(1950年製作の映画)
4.0
黒澤明作品で感心するのはそのエンターテインメント性の高さだ。それはテーマ性の高いこの作品も例外ではない。人間のエゴイズムという難解なテーマを一つの殺人事件をめぐる証言の食い違いとその真相というミステリー的な要素を使う事により観客を惹きつける。その構成は斬新で羅生門での雨宿り、検非違使の裁判、藪の中での事件と3つの時系列を行き来しながら事件全体を浮かび上がらせる事に成功している。また回想シーンを多用する事によって登場人物の証言をセリフだけに頼らずに視覚的に見せているのは流石だ。自己の証言内での理想化された自画像と他者の証言内での実像の違いが分かりやすく映像として提示されてエゴイズムの醜さを感覚的に理解できる。証言ごとに演じ分けて作品のテーマを体現した役者の演技も素晴らしい。特に盗賊・多襄丸を演じた三船敏郎の演技は野性的かつ弱さや狡さを持った人間の本質そのものを表現して見事だった。また京マチ子の妖艶で狂気を孕んだ演技も見逃せない。カメラワークや構図といった面も極めて現代的なセンスに溢れてとても70年前の作品とは思えない。黒澤明の革新性は時代を超えていると思う。
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