「一体 正しい人間なんているのか」
朽ちかける羅生門の下、止まない雨を眺める男が三人。
「わかんねぇ、さっぱりわかんねぇ」とポツリ呟く。
今から何が起こるんだろうとワクワクしてしまいます。
中学生の頃マイブームだった芥川龍之介。当時は「藪の中」よりも「魔術」や「トロッコ」の方が好きでした。でも今また読んだら違って見えるかもしれないぁ。
山中で起きた殺人事件。
その場にいた三人の異なる証言。
何が嘘で、何が真か。
この物語には七人の人物が登場する。
それぞれが悪ぶってみたり、か弱く見せたり、得意げだったり、好き勝手に話すのだけれど、私にはそれらすべてが一人の頭の中で起きている出来事のように思えて、なんとも不思議だった。(インサイドヘッド的な?)
そう考えると、善人がたった一人、お坊さんだけというのも面白くて「人間の心のうち、たった1割しか良心がないのか!」と思ってしまう。
証言をする三人のうち、一人は死人なんですよ。殺された旦那さん。
羅生門の下で一連の話を聞く下人は「死人なら損得も関係ないし、事実を話すんじゃないか」って言うんですね。
でも違うの。
人は死んだら仏になるっていうけれど、死んでも人間なの。怒りと憎しみによって、都合のいい嘘を作り上げているんですね。このあたりがめちゃくちゃ面白い。
「あたしはこの世の中を地獄にしたくはない」
捨てられた赤ん坊を抱きながら、困り顔の坊さん。人の心が信じられない。でもやっぱり信じたい。
雨上がりとともに、ほんの少し希望の見えるラスト、痺れます。
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