カツマ

オン・ザ・ミルキー・ロードのカツマのレビュー・感想・評価

3.6
運命の歯車に導かれ破滅的なラブストーリーはどこへ行く?クストリッツァ監督らしいたくさんの動物たちに彩られたドタバタジプシームービー、アンド死の運命を背負った男女の逃避行劇!『ダーウィンは行く!』もビックリの動物の細密描写はクストリッツァ作品特有の呑気さを持ち込んでいるが、後半のシリアスな展開と中和されて、全体的にはズッシリとした重みをもたらしている。蛇が巻き付くシーン以外はCGではないという知識を入れておくと、映画の迫真性はより高まるはず。劇中の内紛はユーゴスラビア紛争を彷彿とさせ、戦争が日常となった世界を淡々と描き出していた。
主演は監督と兼任のクストリッツァ。美しい花嫁は正に適役モニカベルッチが輝ける美貌を解き放っている。

内紛地帯の激戦地。ハヤブサを駆る男コスタは銃声が日常のごとく吹き荒れる中、いつものんびりと兵士達にミルクを届けていた。ミルクを供給する村ではコスタに片想いする女性ミレナが住んでおり、ミレナは戦地へと赴いた兄の花嫁を探そうと必死だ。美しい花嫁をほとんど拉致同然で連れてきたミレナはコスタとの結婚式も同時にあげてしまおうと考える。だがしかし、コスタと美しい花嫁は徐々に運命に引き寄せられるかの如く、惹かれあっていくことに。ドタバタのラブストーリーはいつしか花嫁が持ち込んだある災厄により暗転し、村を破滅へと導くことになってしまい・・。

前半と後半で全く別のストーリー展開が待っており、前半ののどかな雰囲気は一変。人間も動物も無差別に殺されゆく仁義なき戦争の悲劇がただただ繰り返される。人間に対しては雑なCGを使うクストリッツァだが、動物に関しては徹底してリアリティを追求。ハヤブサも羊も熊も全部CGでは無いなんて、俄かに信じられない!そのため動物が死ぬシーンが苦手な方にはオススメしません。それもまた戦争の被害者なのだとばかりに惨たらしく命が散っていく鮮血のシーンには呆然とした。戦争の惨さも人々の幸せな営みも同時に描き出し、宗教的価値観もスルリと忍ばせる離れ業を敢行。クストリッツァにしか描けない一大叙事詩はここに完成し、見終わった頃には迫り来るその情報量にグッタリとしてしまったほど。それほどに見応えがあり、全てのカットに多義性を感じられる作品でした。
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