ぴのした

オン・ザ・ミルキー・ロードのぴのしたのレビュー・感想・評価

3.8
クストリッツァ作品をリアルタイムで劇場で観れるなんてオラァ幸せもんだ…。

舞台はまたしてもユーゴスラビア紛争を彷彿とさせるような戦時中のどこかの国。戦場にミルクを運ぶクストリッツァ監督自ら演じるコスタは、やってきた義理の兄の花嫁(になる予定の女)と恋に落ちる。しかしこの花嫁は敵国の将軍に命を狙われていてさあ大変!兵士に家を焼かれた2人は愛の逃避行に出ることになるのだが…。

飛び交う動物たち、悲惨な戦争、そこで暮らす人々の普通の暮らし、散りばめられたチャップリンばりの古典的なユーモア、野生的で民族的で情動的な音楽…。『アンダーグラウンド』、『黒猫・白猫』に続き、「いつものクストリッツァ節」が炸裂した、痛快でパワフルな作品。

この映画、いつにもまして動物たちの活躍が凄まじかった印象。お馴染みのガチョウの群れが冒頭で出てきたときからもう可愛くて笑っちゃったし、ヘビに襲われたコスタを助けようと後ろ足でコスタを蹴っちゃうロバや、相棒のハヤブサ、群れる羊など、みんなユーモラスで可愛い。この動物の演技がなくちゃ話が進まないのに、CGはほとんど使ってないっていうからすごい。

他の人のレビューでこの映画を、この世界の片隅にに似てるって指摘してた人を何人か見かけた。アンダーグラウンドもそうだったけど、確かにクストリッツァの映画は悲劇と喜劇が入り混じっていて、戦争の中で平然と続く日常を描いたり、シリアスなシーンの合間合間に笑いを挟んだりするよなあ。そこが逆にリアリティを感じて好きだ。

戦争を舞台にしていながら、戦争の生々しい人の生死はあんまりない。むしろ最後の羊の群れが地雷原を突っ切るシーンこそ、生々しい戦場のオマージュだったのではとも思う。戦争を舞台としながら直接的に戦場での悲惨さを描かないのは、映画を悲劇的にするのを避けているようにも思った。クストリッツァにとって戦争とは完全に悲劇一辺倒の映画で語り切れるようなものではないのかもしれない。

そして忘れてはいけないのが音楽。黒猫白猫とかも音楽は良かったけど、歌とかなかった気がした。今回はクストリッツァの息子が監修したオリジナル楽曲が山のように使われていて、みんなで戦争の歌を合唱するシーンは歌詞も相まってかなり良かった。今作で、独特の音楽世界にさらに磨きがかかった印象。クストリッツァもこの映画中に民族楽器を演奏するシーンがあって普通にうまい。

撮り方もなんか現代的になっていて、かなり驚いた。黒猫白猫とか引きが多くて雑多な背景がよくわかるなんというか古臭い(いい意味で)印象だったけど、今回はローアングルからのショットとか滑らかな映像も多くて今っぽいな〜〜って感じだった。クストリッツァの映画を観たことない人にも観やすいかも。

個人的にはヒロインより、婚約相手の女の人の方が可愛いと思ったんやけど、どうなのか。