青いむーみん

オン・ザ・ミルキー・ロードの青いむーみんのレビュー・感想・評価

4.2
 遅ればせながら初クストリッツァ。どうして今まで観ていなかったのか…こんなに面白いものがあるなんて知らなかった。魅惑のマジック・リアリズムの世界に取り込まれて嵌りそう。

 コメディでありながらリアリスティックな戦場を描き、終戦すると熟年カップルの逃避行アドベンチャーに変容する。それでいて世界が分裂せずクストリッツァワールドの主軸は保ったまま。コントのような演出もこの世界では素敵で、笑っちゃうんだけど鮮やかで楽しくて、冒険シーンのピンチすらもちょっとしたユーモアを含んだ切り抜け方を見つける。楽しい映画を観たいなら理想的な映画だ。どこを切り取っても可笑しく、想像的。そんな世界だからこそラストシーンのコスタの愛の表現方法がハマっているんだろう。

 主演は監督クストリッツァ。頭の中でイメージが出来上がっていてそれを具現化するタイプだと思う。ロジックなんて二の次。魅力的な世界を想像できる稀有な人物だ。彼の演じたコスタという役も彼が実際にこういう自体に陥ったらどういう行動を取るかを考えているらしく、動物とコミュニケーションを取って音楽を演奏する数少ない人物なのだから本人役と考えてもいいだろう。ミルク運びで非戦闘者であるというのも彼の戦争とのスタンスを示しているのだろうか。『オン・ザ・ミルキー・ロード』というタイトルもクストリッツァ自体がミルクを届ける道にいる存在だと思っているのかもしれない。
 お相手のモニカ・ベルッチは言わずと知れた超絶美熟女。そりゃ歳はとっているが魅力が衰えているとは思えない。「50代なのに」とかそんなエクスキューズは必要なくパッと見で非常に魅力的。複数の男を虜にする女なのだからこれぐらいでないといけない。実際コスタに求愛するイカれた女ミレナ演じるスロボダ・ミチャロヴィッチの方が若くて、美人ともとれるがモニカ・ベルッチの魅力はそんな浅瀬のものではなく到底かなわない深遠なものを感じる。この奥深さこそ本物の「魔」というものではないか。
 動物たちの芝居も凄い。それぞれ群れだったり単独だったりで登場するが自然でありながら異常な動きをするので目を奪われる。群れは群れらしく群れの規則に従って、単独は単独らしく自信たっぷりに堂々と動く。蛇のあるシーン以外は全て本物らしく、なぜあんな指導ができるのか不思議。

 とにかく楽しい。リアルな側面としてグロもあるが、展開・演出のおかげでそれ自体がファンタジックになりえているのでただのグロ自慢に終わっていない。グロが心底無理だって人以外は観られるはずだ。是非観てほしい。こんなとびっきり鮮やかな世界を数少ない人達の中でだけで共有しているのはもったいない。