ちろる

オン・ザ・ミルキー・ロードのちろるのレビュー・感想・評価

4.2
現実と幻想的なシーンが交差する、まさしくマジックレアリズム的な映像詩は今も健在!
始まりからアップテンポに炸裂するエミール クストリツァなりの今回の人間讃歌もやはり強烈でした。

内戦が日常化して銃弾を雨のようにかわす主人公コスタには戦争への悲壮感は微塵もなく、村では豚の血浴びるアヒルや人食いからくり時計のシュールな描写も、当たり前のように隣り合う生と死を物語っているようで、もうなにもかも抜け目ない。
この作品は3つの異なる実話と、いくつかの寓話を繋ぎ合わせファンタジー調に仕上げられてた架空の国の物語だが、やはりクストリツァの母国であるユーゴスラビアの紛争も背景にあるのだろう。
束の間の休戦では酒場の中で村人が酒を飲み踊り、バンドを演奏しながら歌う村人たちの姿は陽気で、戦火の中であっても人は笑い、恋をして、明日こそはと希望を持つ今の私たちとなんら変わらない人間の底力はパワフルそのもの。
戦争という存在に屈しない人間はあまりに瑞々しく、悲劇と日常そして喜劇は共存しあう事こそリアリズムなのだと教えてくれる。

この物語は簡単に言えば60才を過ぎた監督自身が演じるミルク運びのコスタと、50代のモニカ ベルッチ演じる謎の花嫁による「中年2人の愛の逃避行」の物語。だけど年増の2人が見せる愛のカタチはまっすぐでピュアそのものでとても美しいのだ。
純粋で優しい男コスタと花嫁の逃避行への道は、人間として驕らず、自然、動物たちと共存するコスタの力によって切り開かれていく。
地面を這う蛇や、2人を覆う滝壺や川、焼かれた村、風で飛ばされる兵士のテント、空を舞うはやぶさ。
コスタと花嫁の2人の奇跡ともいえるほどの数々は「地 水 火 風 空」地上の全てを味方にして流れるように、みるみる運命を切り開く様子は、残酷な描写もありながらもコスタカッコいい!と言いたくなるほどにエネルギーに満ち溢れていた。

正直、動物がバンバン殺されるシーンは耐え難い一方、それでもこの作品に嫌悪感が残らないのは、クストリツァが誰よりも動物たちと信頼を築き上げ、この物語のコスタ自身のように彼らと平等な目線を持っていることが分かるから。
きゃー!蛇きもーい!豚さんかわいそー!とか叫んでるような次元がアホらしくなるほどに、クストリツァの魔術にかかれば動物たちも立派な名優で、蛇以外CGじゃないと後から聞いて尚更ハヤブサにも熊にもなにか賞を与えてあげたいと思うほどだった。

エネルギッシュで滑稽なシーンの連続からクライマックスに一気に訪れた虚無感でしたが、ハヤブサの目線で見る映像にはコスタを包む優しさに満ちていて予想外に涙が出てしまった。
最初から最後まで奇想天外ではちゃめちゃカオスなのにとびっきり愛おしいそんな作品でした。