しゅん

オン・ザ・ミルキー・ロードのしゅんのレビュー・感想・評価

3.5
優れて音楽的。自然と体が反応するバルカン音楽の2ビートはもちろんのこと、豚の血の風呂桶にアヒルが次々飛び込むシーン、あるいは〈噛み付く〉時計や井戸での上下運動に発生するリズムはひたすらに気持ちいい。二部構成の時間構成も上手く、後半の弛緩した逃走劇(しかしそれは生命の危険と等価の弛緩だ)が続いた後に、刺激的なリズムを作り出す地雷原のシーンがはじまり、最後に敷き詰められた石を映す俯瞰ショットでメロメロに締める。この計算された律動操作。色々壊れ続ける映画の中でちぎれた耳だけが治るのもなんだか象徴的だ。危険な兄妹をはじめとした登場人物の造形もいいし、動物の扱いはやはり素晴らしい。クストリッツァによるシンプルなメロドラマは、ウェットとドライの間をいく物語と律動的に構成された映像が見事な連携を見せた充実作。あとタイトルが好きです。

余談ですが、これ一人称の小説にすると初期の春樹っぽくなりませんか?何故か複数の女性からモテる主人公が特別に課された任務を請け負う話だし、喪失感はつきまとうし、セックスは思い切りしてるし。羊と井戸が出てくるあたりなんか正にと思うのだが。
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