ベルサイユ製麺

オン・ザ・ミルキー・ロードのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

4.4

もう、最初の一言が出てこない。
偉大なるリビングレジェンドのひとり、エミール・クストリッツァ監督9年振りの作品。
ジャケットから漂う“善き物語”感、リリカルなタイトルの印象からはかけ離れた、泥とミルクと血膿の滴る黙示録…。

戦時下の村、銃弾の雨の中ミルクを運ぶイカれた男、コスタ。ハヤブサをお供にロバを駆る毎日。コスタにイカれた2人の美女たち。思惑は絡まり、過去の因果は報い、村はあれよという間に火の海、獣と人の骸の山に…。コスタと美女Aの決死の逃亡の幕が開ける。

レビューを書くためにストーリーを記憶しようと試みましたが、ものの10分で諦めました。テンポが早すぎる。映像が豊か過ぎる。視点が次々とジャンプする。ディテールが尖り過ぎている。…とてもじゃないけどついていけない。これは神の視点だわ。
冒頭に“3つの実話に基づき、多くの寓話を織り込んだ物語”と出るのだけれど、果たして何が実話なのだか。空が青い事?時計が怖い事?語られる全てが世迷言のようでも、世界の真の姿のようでも有るのです。
冒頭第一幕、踊り、騒ぎ、ぶっ放す、ハイテンション牧歌(?)の影から見え隠れする不吉なイメージが、マグマの如く噴出、表面化する第二幕、命の次のステージ、天上の世界に橋を架ける第三幕まで、話のトーンや様相を変えながら、しかし淀みなく一気に語りきられる物語は、一言で言えば…“神話”?“宇宙の構造”?…“電波”?とにかく独特。似ている映画は1つも思いつかなくて、寧ろ印象は例えば音楽に近いものが有りそう。(花輪和一先生の漫画にもちょっと近い気がします。)
表面的な部分の感想で言えば、まるで古典的名作を観ているようなタイムレスな味わいの映像、美しい風景に圧倒されます。宴会の席でのエスノビートなど音楽の存在感も凄いです。(監督の息子さんが手掛けているそう!)
モニカ・ベルッチさんには特に思い入れが無く、未だに「ああ、『アレックス』の…」ぐらいなので、大概の酷い目に遭っても驚かない。それよりも主演のクストリッツァ監督自身が、自分の考えた話に対し超然というか、ボンヤリとした佇まいで臨めることに驚きを感じます。まして自身が進んで危険なシーンをやってしまうとなると現場の疲弊は相当だったのでは。…そして、どうしても頭から離れない動物たちの、演技⁇ なの?ダンスするニワトリ、人から口移しで蜜柑を食べる熊、銃撃を受けゆっくりと横たわるロバ、はまだしも、地雷源で炸裂して舞い上がる羊(だった物体)たちはどういう演技なのでしょうね?とにかくビックリです。うう。…というか動物の事だけでは無くて、舞台裏が想像し難いようなシーンが多いです。命綱、本当に無いんじゃないか?とか、発破や火柱が近過ぎやしないか?とか…。なんだか映画にかけるパッションが既知のものとまるで違う印象で、そもそも映画という概念の捉え方が完全に独自なようにも感じられたり。本来はプラスティックのケースとかでは無く、巻物のような状態で村々に一本づつ有る、とかが正しいのかも。

それなりの覚悟を要しますが、観れば仰天出来るのは間違い無いと思われます。個人的にはレオス・カラックスとかと同様、面白いとか、理解出来る・出来ないとかに拘って撮ってるのでは無いように思います。ホントにたまげた。次の作品は何年後…?

ところで、どうしようもない事を書いてしまいますが、いつかはドローン撮影を見ても「ああ、ドローンだ。凄い高さまで行くな。旋回してるな…ドローン、ドローン」とか思わなくなるのかしら?集中力の問題⁇