マダム

オン・ザ・ミルキー・ロードのマダムのレビュー・感想・評価

5.0
監督の初期作品「ジプシーのとき」では、撃たれた主人公が「人生なんて意味ないよ」とつぶやいて貨物列車の上で死んでいく。人生の如何ともしがたいやるせなさを感じさせるセリフだ。(このセリフをつぶやいた主人公を演じた俳優は、その後重度のヤク中になりスロベニアのホテルで首を吊った。コソボ紛争終結直前だった)

ボスニア紛争中に撮った「アンダーグラウンド」では、「苦痛と悲しみと喜びなしでは、子供たちにこう伝えられない。『むかし、あるところに国があった』、と」のセリフで〆る。紛争で破壊しつくされようとしている監督の祖国を意識せざるを得ないセリフだが、シチュエーションは夢の中の願望といったものだった。

今回の「オン・ザ・ミルキー・ロード」では、コスタが砕いた石で黙々と地雷原を埋める。諦めでもなく願望でもなく、とうとう行動し始めたのだ。それも、たったひとりで。同時に監督の目線も一気に拡がっている。

ロマ民族の共同体から消滅したユーゴスラビアという祖国へ、そして全ての生きとし生けるものへの共感へ。徐々に広く、深くなっているように思う。

アンダーグラウンドほどの傑作ではないが、監督の器のデカさをしみじみと感じる作品であった。