ベルサイユ製麺

まんが島のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

まんが島(2016年製作の映画)
3.1
事前の評判(特に影響力がある人のは)を意外に気にせず映画を見てしまいます。この映画は、“最高だった!”か“最悪だ!”だったか、どっちかの評を読んだ気がしたので観ることにしました。どちらだったとしても飛び抜けた何かが見られそうなので。

漫画家をカンヅメにして原稿を描かせる為の無人島が舞台です。原稿回収の定期船が島に来なくなった事により破綻した創作のサイクルは、徐々に漫画家たちの生活、そして精神もおかしくしていきます。だいたいそんなお話です。
知っている人が全く出てません(漫画家のいましろたかし先生がどこかに出てるらしい)。良い事です。事前におそらくド・インディ映画だろうと心構えしていたので、意外なくらい絵心のあるショットに軽く驚きました。役者の皆さんの、いかにも“昭和の漫画家”然とした佇まいも良く、出来事は漫画的なのだけど、演技はややリアリズム寄りなのも好印象です。身体性の低い動きも漫画家っぽいのかな…。
「作家カンヅメにするんなら無人島でよくない?」ぐらいの雑談から生まれたようなお話ですが、小説家では無く漫画家にしたからにはもう少し原稿、特に狂気じみたものを見てみたかったかもしれません。
前半は漫画家×無人島の、あり得ない“あるあるネタ”がバカバカしくも面白い(乾いていない原稿の上を毒ヘビがのたくって台無しに、とか)のですが、後半の締め切りの観念が無くなってからの無間地獄みたいになってからは結構キツイです。〈問題発生→努力→解決〉という一般的な流れではなく〈さらに問題発生→苦悶→暴走〉のサイクルが繰り返されるので話が進んでいる印象が無く、カタルシスも薄いです。
あと、絵面がきたない、かな…。画面いっぱいにフナムシが大写しになる作品は初めてです!4Kイェーイ!
…だいぶん興味が無くなってきたと思いますので、気に入った点も挙げます。
音楽が良いのです。プリミティブな楽器だけで奏でるミニマルミュージックが基調で、後半の方で神がかってしまった漫画家さんによるアウトサイダー的な抽象原稿に合わせて人力トランスめいた楽曲が鳴らされるシーンは、ちょっとボアダムスの周辺のシーンを連想しました。サイケデリックに塗られた原稿とかも含めて00年代の関西オルタナぽい雰囲気が良いのです。この辺りの空気感が自分にとっては飛び抜けポイントなのですが、好みに合わない方と、…苦行感あるでしょうね。
ラスト、ストーリーの辻褄はダイナミックに合わなくなりますし、そもそもちょっと長いです。映画は何がなんでも整ってなきゃダメ!という方にはまったくおススメ出来ません。逆に、情念と勢いは有ればあるほど良い!自主映画サイコー!という方には会うかもしれません。もちろんフナムシガチ勢にもおススメです‼︎