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サスペリアのwakjgのネタバレレビュー・内容・結末

サスペリア(2018年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ティルダ・スウィントンのカルト集団における教祖としての存在感たるや。
美しく整った容姿は中性的であり、女性に閉じ込められるのを嫌っているようでいて、女を捨てることのできない窮屈さが非常によく体現される、はまり役だ。

物語を追いかけながら、あまりに残酷で目を塞ぎ顔を背けたくなるのに、それでいて恐ろしいものへの興味を抱かずにはいられず、野次馬のように覗いてしまう自分の俗物さを痛感する。

サスペリアの舞台となる名門バレエ学校は、表向きにはピナバウシュが率いるようなコンテポラリーダンスを踊る女性だけで成り立っている舞踏集団だが、その実態は閉鎖的に魔術のような心理操作によって生徒の女性たちから性を搾取し、その性を糧に生き延び利用しようとするカルト宗教集団だ。

舞台はドイツだが、主人公はアメリカ生まれ、アメリカ育ち。幼い頃からなぜか自分はドイツに行かねばならぬ使命感を感じ、またこの舞踏集団がドイツから渡米し公演を開催すると聞きつけると家を抜け出しヒッチハイクしてまで、(それも3回も)通うほど、彼らに惹きつけられている。
そんな彼女が、ついにドイツの舞踏団の入団テストの権利を勝ち取り、彼らの前で踊りを披露するとまるでなにかが彼女に憑依したように秀でたダンスをみせ、躊躇なく入団が決まった。
その後も彼女は、次期公演の主演の座を手に入れ、ティルダにも見初められ、公演のパートナー役を務める少女との友情も芽生えはじめる。
この物語に絡んでくるのが、ある心理学者が事件を追いかける軸。彼のところに訪れた少女は、自分は魔女に呪いをかけられており、性を食い尽くされてしまうと妄想に取り憑かれているようだ。そんな彼女が政治思想犯としてテロ事件を起こした。彼女を日記を振り返っていくと、彼女の妄想は全てが空想ではなく、現実では抱えきれないものを整理するための逃げ道なのではないかと彼は思い始め、彼女の所属する舞踏団へのある疑念を抱き始める。そこで心理学者は、主人公のパートナーとなる友人と接触を図り、自分の推理を話すが、彼女は未だ盲信の最中か或いは未だ信じがたく取り繕うことはできない。しかし、彼女も心理学者に提示されたように違った側面で自分の置かれている状況を振り返ると、どんどんとこの状況の異常さに気が付き、核心に迫ってゆく。
カルト組織への追求が、ただ一つのラインではなく、多方面からの糸口があり、それを手繰り寄せるように繋がって行くストーリーが面白い。

また、1970年代、不満や怒りに満ちたエネルギーが閉塞し溜まっていたであろう東ドイツという設定がより一層ホラーとして緊迫感を煽る。

ラストに向けては主人公が大いなる真の母となり、組織の表向きの教祖であったティルダ(マダム・ブラン)、裏の教祖であったマルコスと対峙してゆく。このあたりの描写はもう混沌とし、たくさんの者か仰ぎながら倒れ、人身供儀されたものたちは、生きる意思を問われ、死にたいと言うとお逝きなさいと安楽死へ導かれてゆき、ホラーを通り越してコミカルですらある。
ところが、そこにティルダの存在があることで、主人公とティルダの禁断関係のプラトニックな無垢さが加わり、場面をより一層盛り上げる。

慄くようなグロテスクな描写がなくとも、女性たちの愛憎劇もあり、ドラマだけでも楽しめる作品ではないかとも思うが、やはり狂気が作品全体を押し上げていることは間違いない。
元々ホラーやスプラッターは苦手なので、そういった描写は好ましく思えないのだが、カンフル剤としては、非常に強固なものだった。

ところでティルダは本作で3役を演じたそうだ。本当にカッコいい。
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