YasujiOshiba

サスペリアのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

サスペリア(2018年製作の映画)
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やっと見ることができました。

ふたりの娘は、社会に出たくナイナイ病とか、予備校教師のリテラシーのなさに悩んでたりと、外の世界の垢みたいなものを劇場に持ち込んでましたが、ぼくとしては楽しめましたね。

特筆すべきは、最初のダンスシーン。あれは映画史に残したいくらいすばらしく残酷で美しいホラーだったと思います。

でも、ルーカ・グヮダンニーノのニューヴァージョンは、前半最高で後半になってから失速、あの真っ赤な黒ミサのシーンは、パストローネの『カビリア』(1914)のほうがずっとスペクタクルだったなんて思いながら、さらにはエピローグでせっかくのジェシカ・ハーパーの登場シーンを台無しにしちまう演出には、おいおい、あんたホラーのことわかってんのかよって、つっこみを入れたくなりましたね。

まあ、『君の名前で僕を呼んで』(2017)のものわかりのよい両親の胡散臭さというか、多分イタリア語でいうところのブォニズモ(buonismo)みたいなものが、かなり明示的に、それもセリフで打ち出されてしまうのは、はっきりいって興ざめ。ナチスもテロリズムもベルリンの壁も鉛の時代も、魔女の禍々しさに比べれば... なんていうのは、饒舌にすぎるんですよね。

ものすごい切れ味と過剰な饒舌のアマルガムは、どこかあのトルナトーレや、日本なら押井守なんかを思い出します。

音響はよかったですね。これはちゃんと映画館で見るべきです。さすが現代のホラーですな(ただし監督がホラーをわかっているかどうかは大いに疑問がのこりますけどね)。カメラとか編集とかすごくよかったけど、やはり圧倒的なのはティルダ・スウィントンでしょうか。なんと3役をこなしているというのから、もう文字通りの化け物ですね。

それからダコタ・ジョンソン。ドン・ジョンソンとメラニー・グリフィスの娘という血筋はともかく、赤毛のスージーのすばらしい依り代となっていますよね。もちろん、Dr.クレンペラーの昔の恋人アンケとして登場するジェシカ・ハーパーは、ああここで登場するのかと思ったけれど、その相手役のクレンペラーを演じたのがあの人だというのは、こりゃもうびっくりですわ。

まあ、なんというか、大好きなクロエはDr.クレンペラーとの冒頭の診療シーンでみごとな存在感を示してくれたし(特殊メークの再登場はいただけなかったですけどね)、トム・ヨークも音楽も悪くなかったし、ダミアン・ジャレの振り付け(特に前半)は見事だったし(でも黒ミサのシーンは完全な演出の失敗に見えたのが残念)、なによりもダリオ・アルジェントがいかに素晴らしかったか思い出して称揚する映画としては、152分をぞんぶんに堪能することができました。

ホラー映画はホラーを撮るべきなんですよ。すべてはホラーのための映像でなきゃね。
YasujiOshiba

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