次男

彼女がその名を知らない鳥たちの次男のレビュー・感想・評価

4.0
俳優部はみなさまとても素敵だったけれど、なんだかんだ言ってもやはりみなさま美しいし素性も知っているので、危うくその清潔感に絆され、感動し、気軽に「これは愛ですね」と言えてしまいそうなので、この物語を一般人で想像してみる。陣治はもっと汚く、黒崎や水島はもっと胡散臭く、そして十和子はもっともっと特別でない存在に。饐えた匂いが染み付いた醜男が、クソどうしようもなく頭の悪いブスに惚れ倒し、そのブスは軽薄を絵に描いたような男にハマる。そして、あの顛末だったとしたら。本当に、地獄みたいな人間模様だと思う。ときどき街中を悪い意味ですごいカップルが歩いていて、彼らを見て「うわあ」なんて思ったことがあるのは僕だけじゃないと思いたいけど、もしこれがそんな彼らの話だとしたら、「泣く」なんてとんでもないかもしれない、少なくとも美しい意味でそれを愛だなんて呼べないかもしれないなあとか思ったりした。

でも、じゃあなんだと言われたら愛と呼ぶしかないのかもなあ。美しく賛美するものかどうかはまた別の話で。

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クライマックスの丁寧すぎるフラッシュバックや説明口調は好きか嫌いかで言えば嫌いだし、謳い文句のとおりに共感はなく不快感ともやもやばかり。大好きな作品とかではぜんぜんないのに、なのにけっこうべったりと心に残ってしまって、なんか晴れ予報なのに雨まで降り出したし、困ったものである。

陣治のそれは、美しい衝動などではなくて、最後の台詞を含めて、呪いみたいだった。呪いのような、決して美しいばかりではない愛。
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