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彼女がその名を知らない鳥たちのsatoshiのネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

 「凶悪」「日本で一番悪い奴ら」の白石和彌監督作品。今回は実録作品ではなく、小説が原作。しかもミステリーで、「愛」が主題の作品。知ったときは中々異色な組み合わせだなと思いました。でもよく考えてみると、原作が「イヤミス」の評価を得ていたので、監督がこれまで撮ってきたどこか泥臭い作風と合ってる気がして、何だか納得もしました。

 で、出来上がった作品を観て「良かった」と思いましたね。とても面白かったからです。「愛の概念が覆る」という大げさなキャッチコピーに負けることなく、映画の序盤と後半では、映画の構図そのものがひっくり返ってみえた作品でした。

 「イヤミス」を冠していることから分かる通り、本作の話の軸は失踪した十和子の元彼、黒崎が失踪の謎を探るミステリーです。それに十和子と黒崎の過去、そして現在の水島の関係が深まっていくところも並行して描いていきます。本作はミスリードがとても上手いと思いました。観ていると、「実はこうなんじゃないかなぁ」と考えてしまうのですが、役者の演技力と監督の演出力のせいか、監督の意図したとおりの思考に持っていかれてしまいます。

 そしてこの謎の真相が明らかになったとき、大どんでん返しが起こるわけです。それはミステリー的な意味でもそうですが、映画全体の構図すらひっくり返し、それまでミステリーだった本作を、「愛」の話にまで持っていきます。そういう意味でまさにどんでん返しです。

 一番印象が変わるのは陣治です。それまで下劣で、かつ十和子に異常な愛情を注ぐ男として映っていた彼が、このどんでん返しによって、作中一の天使となります。変わってから陣治目線で十和子との日々を振り返るラストはとても印象的で、十和子が探していた「幸せ」がまさにあそこにあったのかもしれないと問答無用で我々に納得させるものでした。

 ここまで考えて思い出したのは「青い鳥」。これはある兄妹が妖精に導かれて幸せの象徴である青い鳥を探すのですが、最終的にそれは自分たちの家にいた、という寓話です。本作はこれをそのまま置き換えることができるような気がしなくもないです。十和子が探していた幸せは、皮肉にも、陣治だったのかもしれない。だからこそのラストの鳥だったのかもしれないのです。中には水島とか黒崎みたいな男もいるかもしれない。でも、陣治みたいな男もいる。愛す方が幸せなのか、愛される方が幸せなのか。人それぞれでしょうけど、本作はこれを考えずにはいられない作品でした。まぁ陣治の愛に泣いたって話ですね。

 後、書いておきたいのが役者。MVPはもちろん蒼井優さん。まさに「体を張って」演技されています。しかも、あそこまでの嫌な女役は新鮮でした。後は松坂桃李さんですね。最近活躍目覚ましい彼ですが、ここまでになるとは。シンケンジャーは遠くになりにけり。もっと頑張っていただきたいです。
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