せーじ

海辺の生と死のせーじのレビュー・感想・評価

海辺の生と死(2017年製作の映画)
3.2
テアトル新宿で鑑賞。
開場を待たずに列が出来、ほぼ満席の状態で観る事になった。

おそらく多くの人が、満島ひかりさんを観にきたのだろうと推測する。実際、彼女の演技は素晴らしかった。美しかったし、エロかったし、それでいてチャーミングだったしで、トエは間違いなく唯一無二、彼女でしかありえないと思わせてくれた。

そこは良かったのだけれども…

自分は朔中尉があまりに身勝手すぎて感情移入できなかった。
部下の兵士達が死の恐ろしさを紛らわすために、やけくそになって軍歌を歌っているのに、自分は「島の歌を知りたい」って、よく言えたなと思ってしまった。そりゃ、副官に「女と夜毎乳繰りあってらっしゃるなんて!」と責められても仕方がない。
また、自分からそういう状況に飛び込んでおきながら、真っ先に死にに行こうとするのもどうなんだと思ってしまった。責任を取りたいのか知らないが、副官の言う通り、最後まで部隊の指揮をとるべきだろう。

それとやはり…トエとその身の回り以外のディテールと演出が、かなり雑だったのが、目についてしまった。仕方がないこととはいえ、大人たちと子供たちとの演技の落差が酷かったし、時系列も日時はおろか、季節すら判然としない。戦争を題材にしている以上、せめて時系列をきっちり映像に反映して欲しかったのだが、最初の出会いからエンディングまで、ひと夏の出来事のようにしか見えなかった。
空襲の場面も酷かった。音がまったく出ていなかったし、トエらを襲う機銃掃射があまりに嘘くさくて頭を抱えてしまった。

最後の結末も、悲劇から逃げているようにしか見えなかった。
トエが死にきれなかったのは別にして、その後の描写は安直すぎる。
もしかしたら、全員集団自決しきれなかったのか、それともあの辺からはすべて誰かの想像なのかの、二通りの読み解きかたを用意しようとしたのかもしれないが、それにしたって、あれだけ死のうとしたトエがしれっと生きようとする、心の動きがまったく見えなかったのは、残念だとしか言いようがない。

酷評してしまったが、満島ひかりさんの演技は素晴らしかったので、純粋にひとりの女性の恋と熱情を観るのにはなかなかいい作品だとは思う(それにしたって長すぎだが)。
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