ちろる

海辺の生と死のちろるのレビュー・感想・評価

海辺の生と死(2017年製作の映画)
3.6
群青色の海の色、黒々とした深い木々と原色の花。沖縄とはまた違う、鬱蒼とした雰囲気を感じさせる奄美の自然の映像と文學的な世界は独特で途中までは割と好きな世界観。
島で教師をしているトエは「島を守る」ためにやって来た朔中尉に好意を抱く。
終戦間近、戦火が島に近づくにつれて徐々に明るみになる朔たちの駐留の本当の意味はその後に島に起きる悲劇を予感させるものでもある。
美しく島を見守る奄美の海が、やがて死を予感させる存在となるに従って、密やかに続いた2人の純愛がやがてトエの愛の狂気の塊へと変化していき、その2人の逢瀬の情景は静かで暗い。
私は基本的に感覚で観てしまうので、割と早くから島にトリップできて大丈夫だったが、島時間?なのかすべての会話シーンにあまりに余白が多くて、映画をプロットや脚本、演出でしっかりと分析しながら観る人にとっては少々イラついてしまう作りかもしれないし、余白詰めたら1時間半で収まりそうな内容だなと思った。

島の会話は字幕が必要だし、可愛い子供たちの演技は今時珍しいほどに棒読み。
だけどそんな中でも満島ひかりの演技だけは相変わらずとても良い。
トエが初めて中尉からの手紙を窓辺で読む姿、真夜中に海辺で中尉を待つ姿。夜中の海辺でトエが砂をかき集めるシーン。
純愛が後戻りできない深い狂気と変化するトエの欲情が彼女にのりうったように見えてどんどんと引き込まれるし、戦時中とは思えない穏やかな島でトエが子供たちと触れ合ういくつかのシーンは、「二十四の瞳」を思いださせてくれて、映画の中の「生」を最も表している生き生きとしたシーンだった。

大好きな満島ひかり、そして個人的には、この手の島の映画は無条件に好きだが、僭越ながら劇中に満島ひかりの唄う奄美の島唄や彼女の微乳(ちっぱい)姿は期待ハズレだった。

あと、トエの身に纏う服が可愛すぎて、時代表現のリアルさに欠けるのでそこが気になってしょうがない。
また、もしかしたら私が行間を読めないだけなのかもしれないけれど、ラストへ向かい押し迫る島の死への覚悟と、あまりにもあっけない終戦の描写は違和感を感じる。
途中までは奄美の独特な世界に入り込めて2人を穏やかな気持ちで見守ることが出来たのに、島の長閑すぎる描写と死への恐怖の抑揚には後半に行くにつれてどんどん馴染めなくなってきて心が置いてきぼりになってしまった。
期待が高すぎたのでちょっとだけ悔しい思いをしたかな。
ちろる

ちろる