えんさん

DESTINY 鎌倉ものがたりのえんさんのレビュー・感想・評価

DESTINY 鎌倉ものがたり(2017年製作の映画)
3.5
幽霊や物の怪が生息する鎌倉。そして、ここは魔界や黄泉の国の間で、生者と死者が交錯する都でもあった。この地で静かに暮す一色正和は売れっ子になりきれないミステリー作家でありながら、この地で起こる現世人だけでなく、妖怪、幽霊、魔物など様々な人々を巻き込む怪奇事件に対し、警察に捜査の協力をしていた。そんな一色のもとに、歳の離れた若い妻・亜紀子が嫁いでくる。最初は、この不思議な妖気漂う鎌倉の地に慣れなかった亜紀子ではあったが、徐々に一色との鎌倉での生活を楽しめるようになってくる。そんな中、ある大金持ちが殺害される事件が発生する。いつもの通り、一色は警察から捜査協力を求められるが、事件の捜査を進めるうちに、静かだった亜紀子との新婚生活すら徐々に脅かされるようになってくる。。山崎貴が『三丁目の夕日』に続いて、西岸良平のベストセラーコミック『鎌倉物語』を映画化した作品。

「三丁目の夕日」や「永遠の0」など、今は過ぎ去りし、懐かしき時代をVFXで巧みに表現して、その時代の雰囲気を復活させるとともに、更に現代人にも通じる人間ドラマを生み出す山崎貴。この人ももとは特撮出身で、SFやVFX満載のアクション大作を手がける人というイメージでしたが、そのVFXの達人というイメージを逆手にとって、逆に新しい世界観を生み出し、その中で人をダイナミックに動かしていくというドラマ派の印象が最近は強くなってきたかなと思います。その意味で本作は、「三丁目の夕日」のような少し前の時代感は残しながら(まぁ、同じ原作者の作品なので当たり前ですが)、妖怪や黄泉の国などの異世界との接触モノという新しいジャンルの作品に挑戦していると思いました。この妖怪モノというのが、海外にはあまりない独自ジャンルで、しいていてば「パンズ・ラビリンス」のギエルモ監督に近いのかなと思いますが、あちらはモンスターものというジャンルで、日本のような神話・信仰にも近い宗教色はあまり帯びない。中国なら、西遊記のような神や仏の物語と融合するエンタテイメントもありますが、それよりはもっと生活に根ざしたアニミズム的なところも感じる。「三丁目の夕日」も日本人の精神的原点というべき部分を取り上げていましたが、本作はまた日本にしかないような独自のジャンルだなと改めて思いました。

あと、黄泉の国の接点となる鎌倉の街というのも面白い設定。原作を僕は知らなかったですが、どこかしら生活の中に神や仏が潜んでいそうというのは、やはり鎌倉も京都と同じような空気感を感じ、同時に観光では行きたいけど、道は渋滞するし、公共交通機関はいつも混むという、住みたい街ランキングでは上位に来ないというところも京都と同じだなということも感じています(笑)。話を映画に戻すと、少し時代は前という設定ながら、街中に異空間をシームレスにつないでうまく描くというのは相変わらず上手だなと思いました。もっとも、空間をあまり拡げずに、箱庭感を感じざるを得ないというのは残念な部分でもありますが、コテコテのCGの背景を足して安っぽくするよりは幾分マシかなと思います。後半にあるアクション部分では逆に変なリアリティのこだわりはいらないので、山崎監督がお得意なCG背景でダイナミックなアクションシーンを作り上げているのはなかなか良いと思います。

それに登場してくるキャラクターが実にいい。一色演じる堺雅人は、少し押しが弱い草食系男子のようなところが漂う主人公を好演していますし、特にいいのが妻・亜紀子を演じる高畑充希でしょう。序盤の新米妻っぷりにはコロコロ表情が分かる少女っぽい可愛さがあるし、後半の妻として一色を想いながら黄泉の国へ旅立っていくところは、逆に女としての愛おしさというところを艶っぽく演じている。キャリアは長いながらも、ここ数年の活躍は今後が期待大といったところでしょう。他に貧乏神を演じた田中泯、お手伝いを演じる中村玉緒などのベテラン俳優が楽しく演じているのが、実に作品のいい味になっていると思います。