あしからず

エルミタージュ美術館 美を守る宮殿のあしからずのレビュー・感想・評価

3.4
圧巻。海のように広大なネヴァ川沿いに建つロココ調の巨大な建物の中にこれでもかと壁を埋める絵画と乱立するように置かれる数々の彫像、上下左右どこを見回しても豪奢な室内装飾は全て権力の象徴として圧倒的。美術館を築いたエカテリーナ2世の肖像、ドレス、宝石から始まり、エイゼンシュテインの「十月」の映像をインサートしながらボリシェビキの襲撃を語り、第二次世界大戦での鉄道3台を使った美術品の移送や当時の苦境、大戦後のドイツから応酬した美術品の公開問題から、現代作家の作品展示まで、この世界遺産の体験した激動の歴史を辿る。その間カラヴァッジオ、レンブラント、ベラスケス、ラファエロと所蔵する世界有数の作家の作品、またスターリンが嫌っていたポスト印象派以降のゴッホ、ゴーギャン、ピカソ、マティス、そしてカンディンスキーの作品もスターリン死後展示されたとして次々と世界的価値のある作品(それも全体の一部)が画面に現れため息。ちゃんとエルミタージュの猫ちゃんも登場するも、大戦中に飢餓で猫まで食べた話の後だったから切なかった。
この規模と歴史の収蔵庫は政治的なことから切り離すことは到底できず、そもそも成り立ちや美術館そのものが冬宮殿という王政の象徴である中で、インタビューを受けたある学芸員さんの話がとても心に残る。大戦中に絵画を移動し、額縁だけとなった展示室で、入ってきた疲れきったソ連の兵士たちにガイドが絵の説明を始めた。そこに絵がないにも関わらず、その説明に兵士たちが聴き入っていたと。その瞬間の美しさを想像してなんとも言えない気持ちに。
映画最後の展示品は、エイゼンシュテインも撮っていた美術館のシンボルである孔雀の黄金のからくり時計で締められる。あれをいつか見たいと思ってるんだけど、いつになるやら…

ガラス張りの見せる収蔵庫がとにかく素晴らしい。死蔵しない名案。どこかの県の展示品の扱いとは全く違う
あしからず

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