このレビューはネタバレを含みます
「女性差別主義者vs.フェミニスト」といった、分かり易い勧善懲悪を期待していたら、それとは微妙に軸のズレた作品だった。
悪の代表と思われた、ボビー・リッグス(スティーブ・カレル)はただのギャンブル中毒者で、自分が目立つ為に女性差別を利用したに過ぎない。
妻には尻に敷かれるタイプだし、子供達への愛情も深い、良き父親でもある。
一方で、正義の代表と思われた、ビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)は不倫をしていたりもする。
しかも、相手は女性で、彼女は同性愛者でもあるのだ。
この捻くれた構造により、この映画は単純な勧善懲悪の物語から外れ、より深いテーマを照射してみせる。
リッグスをただの道化とする事で、彼よりも、むしろ普通の人々の中に潜む差別意識の方がおぞましいと感じさせるし、それこそが差別の本質的な問題でもあるのだろう。
また、キングが同性愛者である事によって、ただの女性差別に止まらない、多層性と普遍性を与えてる様に思う。
この戦いは、女性の戦いであり、同性愛者の戦いでもあり、全ての被差別者の戦いでもあるのだ。
そんな中で、図らずも女性代表として戦う事になってしまう、キングの姿がグッと来る。
彼女の双肩に掛かったプレッシャーは如何程のものだったのか?
それは試合後の涙を見れば明らかだろう。
一方で、ギャンブル中毒者として、自分を変える事が出来ないリッグスにも、一定の同情は感じられる。
注目を浴びる事でしか、生を実感出来ない男の孤独と哀れさたるや…。
あの敗戦によって、彼もまた何かしらから解放されていると良いのだが…。
前述した様に、本作には分かり易い感動は用意されていない。
何故なら、キングがリッグスを倒したところで、彼は本当の敵ではないからだ。
男女同権、LGBTQの権利と言った、社会問題は今もまだ残り続けている。
本作は安易な感動を与えない代わりに、世界を変える為に戦う勇気を与えてくれる事だろう。
全ての人がありのままでいられる日が来るまで、“バトル・オブ・ザ・セクシーズ”は続くのだ。