鋼鉄隊長

嘘八百の鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

嘘八百(2017年製作の映画)
4.5
TOHOシネマズ梅田にて鑑賞。

【あらすじ】
千利休生誕の地、大阪堺市を訪れた古物商の則夫は、古い屋敷の蔵で利休ゆかりの茶碗を見つけるが…。

 大阪が舞台となれば、浪速っ子としては観ないわけにはいかない!…と思いつつ、中々観に行けなかった作品。ついに観られた!
 騙しあいをテーマにした作品なので、物語の展開は会話で繰り広げられる。大阪が舞台であることから、使われる台詞は当然「大阪弁」。これが大変心地良い。テンポ良く進む大阪弁の掛け合いは、それが台詞なのかアドリブなのか判断できなくなるほど、自然なリズムを作っている。冒頭、カーラジオから聞こえる浜村淳の大阪弁は、その最たる例であり、大抵の映画ではBGM程度のラジオ音声が、物語への自然な導入の役割を果たしている。
 また、キャラクターの個性が面白い。すまし顔で騙す佐輔(佐々木蔵之介)や、困り顔がチャーミングな則夫(中井貴一)もさることながら、利休を語れば止まらない学芸員の田中(塚地武雅)など、脇役のキャラも際立っている。今回はあまりボケない坂田利夫師匠も、ちょこまかと動くだけで面白い。話は大阪弁の良さに戻るが、文化財部長(桂雀々師匠)のボヤキを聞いて、悲しい話ですら大阪弁にすると笑えて聞こえるなと感じた。
 そして、この役者を引き立てるカメラワークが素晴らしい。ここでのカメラワークは特別変わった動きをしない。しかしカメラは役者を取り巻く光を的確に捉えている。蔵を開けた時に舞う埃が光に当たってキラキラと輝く様や、黒楽釉の茶碗に吹き付けられた渋い緑の釉薬の光沢など、光によるわずかな色の変化を逃さない。特に印象的なのは、佐輔が妻に逃げられるシーン。急なことに驚く佐輔の顔を、妻が玄関を開いた時の外の光で映し出し、その顔が戸が閉まると同時に濃い影に包まれるまでをカメラが切り取る。台詞無しでも心情が伝わる見事な演出だ。
 台詞、登場人物、映像のバックスクリーン三連発。くすりと笑えてほっこりできる、吉本新喜劇のような良作だった。
鋼鉄隊長

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