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羊と鋼の森のKUBOのレビュー・感想・評価

羊と鋼の森(2018年製作の映画)
3.8
これは東宝というメジャーが制作・配給する稀有なアート系作品だろう。

5月11本目の試写会は、山崎賢人主演、本屋大賞受賞作の映画化「羊と鋼の森」。

本屋大賞を受賞した宮下奈都の原作は「音」を文章で表すという離れ業をやってのけた。

例えば冒頭、外村が初めて板鳥の調律を聞いた時を「その人が鍵盤をいくつか叩くと 、蓋の開いた森から 、また木々の揺れる匂いがした 。」と描写する。

当然、映画化は、この「文章で表現した『音』」を、どう映像で表現するか、との闘いだ。言い換えれば「小説」という媒体と「映画」という媒体との闘いでもある。

予想された通り、映画では、小説にあるモノローグによる語りをほぼ廃して、「映像」と「音響」と「芝居」でそれを見せる。特に本作のイメージとなる「森の音」を見せるために「音響」「録音」にはかなり力が入っている。

主演の山崎賢人は主演作が止まることを知らぬ大人気ではあるが「ジョジョ」「斉木楠雄」と映画ファン的には「また山崎賢人?」くらいにしか思えない俳優。

だが私はひとつ彼の光る演技を見たドラマがある。「陸王」だ。この作品の中で役所広司の息子役を演じた山崎賢人は、モテモテ高校生でもなく、スーパーヒーローでもない、初めて身の丈にあった役をもらって活き活きと演じていた。だから本作の「外村」役と聞いて、合うんじゃないかと内心期待して見た。やはりというか、気の弱い悩める青年役は山崎賢人によく合っていた。

ただ「音」を書き表わすために雄弁だった小説に比して、それを映像と音響で表した映画は静寂が基本。ジェットコースタームービーに慣れた若い人には、退屈だったり、眠くなったりするかもしれない。

原作では双子の姉妹の和音と由仁を演じている、上白石萌音、萌歌の姉妹も良いし、セリフはほとんどないけど「ちはやふるの机くん」も出てきてうれしい。

「音」を文章で表した本屋大賞受賞作の映画化、原作を読んでいた私はどうしても比較ありきで見てしまう。純粋にレヴューできるのは未読の方かな? ただダメだったら酷評するだろうから、この静謐で温かい映画は小説に対する映画からの答えとして、ある程度のクウォリティで応えた作品と言っていいだろう。

(でも映画見て気になったら小説読んでみて。文章で表した「森の音」をあらためて映画と比較してみるのも、きっとおもしろいよ)