マクガフィン

羊と鋼の森のマクガフィンのレビュー・感想・評価

羊と鋼の森(2018年製作の映画)
3.5
ピアノの調律に魅せられた青年が、調律師として社会と調律の深い森の中を彷徨い、深淵の縁に立たされて、先輩たちの行動やアドバイスで自分を見つめて、少しずつ歩んでいく成長譚に。原作未読。

ピアノの音が情景として広がり、心地よい音と美しい映像の描写が紡がれる静謐な調和は繊細で柔らかくてアート的にも。

調律は技術的な能力が重要で職人としてピアノに一人で向き合って黙々と作業するのだが、技術も大事だけど人とのコミュニケーションも重要で、想像したり察知する能力の扱い方や心の機微の変化をピアノの微調整する調律で表したりと様々な繋がりや組み合わせた、心とピアノの繊細さや奥深さの表現に感心する。

各々の先輩からの調律のアドバイスは、調律師としてだけではなく、社会に出たての青年へのアドバイスにも。新社会人だけでなく、向かえて先輩となる人たちにも大事でやさしい言葉に。

アート映画にさせないために、ラストの説明セリフは良いが演出が微妙。悪くはないのだが説明セリフだけでなく視線で様々な空間的な奥行などの映像描写が必要なのでは。音の広がりの映像が足りなく、映像がスタンバイモードになり、作品が停滞して残念。それまで積み上げた音と映像の演出が微妙に揺らいだ原因に。その前後が良かっただけに、もう一捻りが欲しかったが、独自な表現方法は興味が尽きなかった。