海老

羊と鋼の森の海老のレビュー・感想・評価

羊と鋼の森(2018年製作の映画)
3.4
想像以上に、凛とした緊張感と繊細さを感じさせる「調律」の物語。

ストーリー展開は至ってシンプルで、調律に魅入られた青年の成長物語。

素晴らしかったのは、調律をテーマとしているだけあって、音で語りかけてくる繊細な表現。これは物語の意外性を楽しむ作品ではなく、音の景色を愉しむ作品。

静寂漂う中に透き通った打鍵音が響く。
これほど、周囲の音を遮断したいと願う作品もなく、衣擦れの音さえ煩わしい。本作に限ってはポップコーン禁止として頂きたい。

同じピアノをもっても、人によって求める音はまるで違っていて、調律師はそれに応じる役目がある。まるでそれは、演奏者という一人の人間を射影したかのようなもので、演奏者と調律師は音を通じて触れ合う。言葉での説明は一切せずに、「音」だけで繋がっていくかのような美しさには身震いしました。森の神秘性には何故こうもピアノの名曲が映えるのか。流れるような旋律に投影される木々や小川の生命感が一層増すよう。

ここまで書いておいてスコアがアレなのは、前半の美しさで後半も完走することを願ってしまったがゆえ。

中盤、ある不幸で心を閉ざした青年の心をほどくようなシーンがあります。その間、流れているのは子犬のワルツの演奏だけであり、言葉は無粋と言わんばかりに音と絵だけで全てを語る壮麗さ。僕にとってはここがピーク。

終盤の流れは言葉が多く、そこは語らなくていいよ、と思ってしまった箇所がチラホラ。
これだけ表情豊かな音で語りかけてくれるのだから、人物の語りはフェードアウトして欲しいと思ってしまった。

そう思うのも、あくまで演出が美しかったからこそ。